世界経済の「リオリエント」 - 『ドル漂流』

2010年06月05日 13:33

★★★★☆(評者)池田信夫

ドル漂流ドル漂流
著者:榊原 英資
販売元:朝日新聞出版
発売日:2010-05-20
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菅新首相は就任記者会見で小泉改革を「デフレ下でのデフレ政策」と批判し、財政出動によるデフレ脱却を主張したが、彼がデフレとは何かを理解しているのかどうかは疑わしい。著者もいうように物価下落をすべて「デフレ」と表現することには問題があり、最近の世界経済に起きているdisinflationの最大の原因は、新興国の台頭による相対価格の変化である。

財政・金融政策によってマクロ経済をコントロールするケインズ政策は、主権国家の自律性が高かった20世紀の考え方で、グローバル化が進んだ21世紀には有効性を失った。ユニクロに典型的にみられるように、日本企業とアジアの生産現場が統合されているので、国内で通貨供給を増やしても中国で生産されるジーンズの価格は変わらない。価格の下落を止めるには、「鎖国」によって経済統合を止めるしかない。

このような現象は、歴史的にみるとさほど奇異ではない。西欧文化圏が世界の中心になったのは、たかだかここ200年ぐらいのことで、歴史の大部分ではアジアが先進国だった。たとえば1820年には、中国とインドで世界のGDPの55%を占めていた。西欧のGDPが中国を上回ったのは1870年以降である。したがって中国やインドは「新興国」ではなく、いま起こっているのは東洋にふたたび経済の中心が戻る、フランクのいう『リオリエント』と考えたほうがいい。

これによってドル中心の世界経済も「無極化」し、地域ごとにユーロとアジア通貨の併存する体制が続くだろうと著者は予想する。巨大な債務を負っているアメリカは2008年の金融危機以降、世界経済のエンジンとしての地位を失い、過剰資金がアジアに環流して、またバブルや経済危機を引き起こすリスクも大きい。こうした中でますます内向きになる日本は国際的な地位を失い、経済も収縮し、マイナーな国家になるだろう。新政権には、そういう自覚も対応策もあるようには見えない。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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