長期金利1%割れと老人とオオカミ少年 - 藤沢数希

2010年08月12日 00:23

日本国債が人気だ。投資機会が国内で不足するなか行き場を失った現金が国債に向かっている。長期金利の目安として使われる満期10年の日本国債の利回りが1%を下回ってきている。債券は価格が上がると利回りが下がる。つまり多くの投資家が日本国債を買っているということである。国債金利は年率の利回りで表されるので、満期が10年の国債の金利が1%低下すると国債の価格はだいたい9%上昇する。要するに日本国債は大人気だし、日本国債の信任に担保される日本円も世界中で買われ、1ドル85円前後で取引されているのである。

長期国債(10年)新発債流通利回の推移
出所:日本銀行のウェブ・サイト等から筆者作成


今日まで日本の大きな財政赤字やGDP比で200%にも達する政府債務残高に対して多くの経済学者が警鐘を鳴らしてきた。このままでは日本は財政破綻すると少なからぬ市場参加者が警告した。しかし現実には日本国債は大人気で長期金利は1%を切っている。

実は日本政府破綻論は2000年にITバブルが崩壊した時もさかんであった。当時はこのように国民の危機意識を煽って、来るべきハイパーインフレにそなえて高価な金貨を買わせたり、外国ファンドを買わせたりする業者がたくさん現れた。またこのような危機的な状況にある政府の通貨である円をほぼゼロの金利で銀行に預けておくのは愚かだと多くのフィナンシャル・プランナーがいい、株式などのリスク資産に資金を配分するべきだと主張した。

2008年には名門投資銀行のリーマン・ブラザーズが破綻し、株式市場が暴落する中、多くのヘッジファンドも多額の損失を出した。そして結局のところ一番儲けたのは金利がゼロの銀行に日本円で貯金して何もしなかった日本の老人だったのである。投資のプロ中のプロのヘッジファンドのパフォーマンスが低迷し、世界的な投資銀行が破綻する中、ひとり勝ちしたのがタンス預金や金利ゼロで銀行に貯金した日本の高齢者だったのだ。

そして現在もタンス預金している日本のほとんどの金融資産を保有している老人たちは、金利が低下し、日本円が上昇する中、相変わらず勝ち続けている。その間年金も常に受給しながら。日本国債が暴落すると警鐘を鳴らしていた経済学者は、まるで「オオカミが来る、オオカミが来る」と騒いで、結局オオカミは現れずに村人の信頼を失ってしまうオオカミ少年のようだ。

どうしてこのような危機的な財政状況の中で長期金利が低下し続けているのだろうか? 名目長期金利は次のように分解することができる。

 名目長期金利 = 潜在成長率 + インフレ率 + 財政プレミアム

この式から現在の低金利をそれなりに説明することも可能だ。人口が減少し稚拙な政策運営が続く日本で潜在成長率が低下し、景気低迷からさらなるデフレを市場が織り込んでいるとしよう。潜在成長率が0.5%ほどで、毎年1%程度の物価の下落を予測しているとすると、最初の二項を足すと0.5%-1.0%=-0.5%になる。名目長期金利が1%なので、市場が織り込んでいる財政プレミアムは1.5%程度ということになる。市場はそれなりに日本の財政破綻の可能性を気にしているということもできる。ただ単に国債バブルという言葉で片付けることも可能なのだけれど。いずれにしても金利のマーケットから財政破綻の予兆らしきものは見当たらないというのが現状だろう。

それでも筆者は財政規律というものは非常に大切だというスタンスは変えていない。肥大化の止まらない社会保障費を大幅にカットして、財政規律を取り戻すべきだ。このまま政府債務が膨張し続ければ必ずXデーはやってくる。例えオオカミ少年と呼ばれようと、筆者は警鐘を鳴らし続けることにする。オオカミはきっと来る。

参考資料
なぜ投資のプロはサルに負けるのか? 藤沢数希
日本国政府がどれだけ借金しても絶対に日本は倒産しないと言うことのサルでも分かる説明、金融日記
勝間さんのインフレ政策を実行するとどうなるのか? 金融日記

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