イノベーションはすべてを解決するか - 『繁栄』

2010年10月30日 14:30

繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史(上)
著者:マット・リドレー
早川書房(2010-10-22)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


今のような時期に”The Rational Optimist”(原題)という本を出すのは勇気がいるだろう。おかげで邦題は『繁栄』という意味不明のものになったが、気のめいったときは、こういうバリバリの楽観主義の本を読むのもいいかもしれない。

著者によれば、人類は20万年にわたって絶え間なく進歩を続けており、その源泉はイノベーションである。人類史上で最大のイノベーションは、アダム・スミスも指摘したように交換分業である。個体群の中での協力や互恵的な行為は高等動物に広く見られるが、労働生産物を交換する行為は人類にしか見られない。これは自分の得意な仕事に特化する分業と表裏一体で、これに支えられた市場は人類とともに古い。

市場をエゴイストの作ったものだと思っている人が多いが、逆である。市場にとって最も重要なのは信頼であり、それを支えるしくみの一つが貨幣である。技術の発達を支えたのも、分業と交換だった。1万年前に農耕文明が生まれたのは、広い交易の行なわれた地域だった。5000年前に都市が生まれたのも、食料を生産する農村との分業が前提だった。

そして産業革命を生んだのは科学的知識ではなく、富を求めて新しい技術を開発する人々のイノベーションだった。そのころから「資源には限界がある」とか「収穫が逓減する」といった悲観論があるが、すべて裏切られてきた。資源には限りがあるが、イノベーションを生み出す知恵には限りがないからだ。資源問題も環境問題も人口問題も、富が何倍にも増えれば必ず解決する、と著者は予言する。

しかし彼がプロローグで恥ずかしそうに半ページだけ書いているように、著者が会長をつとめたノーザン・ロック銀行は、2007年に経営が破綻して取り付け騒ぎを起こし、世界金融危機の引き金を引いた。世界は楽観してばかりもいられないようだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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