無垢な子供という神話 - 『哲学する赤ちゃん』

2010年11月06日 10:57

哲学する赤ちゃん哲学する赤ちゃん
著者:アリソン ゴプニック
亜紀書房(2010-10)
販売元:Amazon.co.jp
★★★★☆


民主党政権の課題の一つに「待機児童」の問題がある。大阪地検と闘って勝利した村木厚子氏が「待機児童ゼロ特命チーム」の事務局長に任命されたが、その目標の実現は容易ではない。これは保育所という社会主義システムの構造的な問題だからである。

さらに本質的な問題は、幼児を単に「預かる」対象とみる保育所の体制だ。従来の通念では、教育というのは学問的に確立された知識を教えることで、幼児のようにそれを理解する能力のない段階では無意味だと考えられてきた。そこには大人が完成された人間で幼児は未発達で無垢な存在だというピアジェ以来の伝統的な幼児教育のイメージがあるが、本書は最近の脳科学の成果にもとづいて、こうした常識を否定する。

赤ちゃんの知的な活動は大人より活発で、想像力や学習能力は大人よりはるかに高い。赤ちゃんの神経回路は大人より多く、成長するにつれて「刈り込まれ」、概念や分類で整理されるのだ。赤ちゃんは大人より多くの情報を収集し、自由に発想するが、それを抽象的なカテゴリーに入れないで一つ一つ具体的に考える。思考力も記憶力もあるが、それを「私の記憶」として系統的に分類しない。

こうした自由な思考は言語を習得するにつれて概念化され、いろいろな行動を「自分のやったこと」と認識し、それに対する責任を感じるようになる。つまり従来の幼児教育が想定しているように、大人は幼児という白紙に知識を書き込んでいくのではなく、無秩序で豊かな子供の想像力を社会の秩序という「型」にはめていくのだ。

そして幼児期に「ハードウェア」として形成された脳の回路は、一生変わらない。学校で教わる知識は、それを動かすソフトウェアなので、幼児期の回路形成が人的資本に決定的な影響を及ぼす。イノベーションを高めるには、幼児期の自由な発想を生かしながら教育する工夫が必要だろう。グーグルの創業者やスティーブ・ジョブズなどのイノベーターがどこか子供っぽいのも、このせいかもしれない。

だからOECDも提言するように、教育投資の効率は幼児期が最大なので、就学年齢を引き下げ、幼児教育への投資を増やす必要がある。補助金漬けの保育所は廃止して幼稚園に統合し、ゼロ歳児から社会全体で子供を教育するとともに働く女性を支援するシステムを確立することが、少子化社会にとって不可欠である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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