テレビ局の「ごね得」を擁護する朝日新聞

2010年12月01日 09:09

ソフトバンクの孫社長が口火を切った700/900MHz帯の再編は、710~806MHzと915~950MHzが開放される画期的な結果になりそうです。周波数オークションを行なえば1MHzで130億円と評価されているので、合計130MHzは約1兆7000億円の価値があります。これはソフトバンクの大勝利であり、電波部の決めた周波数割り当てを民間がくつがえしたのは、電波行政の歴史上初めての出来事です。


ところが、きのうの朝日新聞に「周波数再編、劇場困った マイク使えない?TV中継にも影響」という記事が出ています。それによれば、全国で2万台あるワイヤレスマイクが移動されるので、劇場が困っているという。その買い換え費用は1000億円で、総務省はこれを周波数をもらう通信業者に支払わせる予定ですが、ワイヤレスマイクの利用者は移動はいやだと主張しています。

ワイヤレスマイクにはA型とB型があり、周波数が再編されてもB型は使えます(性能はほとんど変わらない)。A型マイクも、劇場で使われている多くの輸入マイクはホワイトスペースを使っているので移行は容易であり、1000億円という移行費用も誇大で「ごね得」です。輸入マイクはもぐり(電波法違反)なので、彼らはその実態を記者に話さなかったのでしょう。

最大の問題は、周波数の再編がいかに重要な問題かをこの山口宏子という記者が理解していないことです。当初案ではアジアの標準周波数と異なるため、次世代のiPhone/iPadは日本では使えなくなり、日本の通信サービスは致命的な打撃を受けます。単純に周波数の価値で考えても、当初案では携帯に40MHzしか割り当てないので、700MHz帯だけでも60MHzが浪費され、約8000億円の国民的損失になります。

たった2万台のワイヤレスマイクと、1億1000万台の携帯とどっちが大事か、朝日新聞にはわからないのでしょうか。1000億円の移行費用なんて、1兆円以上の周波数の価値にくらべればわずかなもので、参入業者が負担すればいい。それでも「文化や芸術は効率だけで考えられない」などと理屈にもならない理屈をこねて既得権を守ろうとする人々が、電波の有効利用を阻んできたのです。

この記事のねらいは、実は最後に書かれている「日本民間放送連盟も周波数帯を動かすのは『現状では困難』としている」という部分にあります。FPUに36MHzも占拠しながら使っていないテレビ局は、ワイヤレスマイク業者を盾にとって既得権を守ってきました。総務省の作業部会でも、ITSやMCAは早くから立ち退きを決めたのに、FPUとワイヤレスマイクが最後までねばり、御用学者まで動員して総務省の当初案を擁護しました。

このようにあの手この手で電波利権を守るテレビ局と、「文化の味方」を装って彼らの既得権を守る新聞社が、電波の有効利用をさまたげるだけでなく、日本のジャーナリズムを腐らせてきました。その意味で、孫正義氏が切り開いた電波開放の道は、日本のメディアを大きく変える可能性があります。

追記:電波法では、周波数の変更にともなう補償金は残存簿価しか払わないことになっています。アナログのマイクはほとんど償却が終わっているので、マイク業者のいいなりに補償するのは違法です。免許期限より早く立ち退かせる「プレミアム」を考えても、1000億円(マイク1本500万円!)ということはありえない。

池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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