農家不在の議論はやめませんか。-中山星児

2010年12月02日 20:40

現在、日本ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へ参加すべきかどうか議論が白熱している。ここイギリスでは、太平洋に面さないせいかあまりこのニュースはあまり見かけないが、日本のウェブサイトで、特に農業に対しての議論を見かけるたび、農業従事者の存在が忘れ去られているのが残念でならない。


経済的メリットが大きい関税撤廃に日本の態度は固まらないのはやはり農業を守るためであろう。守る、と書いたが、守らないと死んでしまうと書いた方が正確かもしれない。その中でも最も手厚い保護を受けるのがお米である。

米の輸入関税率は何と778%。この関税のお陰で海外の米は日本で流通せず、日本の稲作農家は何とか農業を続けられるのである。そんな守られている農業人口は減少の一途で、その数288万人。これは全人口の3%以下。GDPの1.5%。そんな背景が「そんな産業のために、輸出大国日本が高い関税を払い続けるのか。」や、「この過保護のせいで日本の農業が自助努力を怠り競争力がなくなったのだ。」といった論調に繋がっていると認識している。

経済的な観点で日本の利益を考えた時これらの考えは理解できる。しかし、農業従事者不在の中でのこの論調には疑問を感じざるを得ない。目覚しい経済発展を背景に、相対的に弱者となってしまった農業従事者。それは彼らが努力を怠ってきたからだとする論調がもしあるなら、私は怒りを覚える。

少し私の家族の話をしたい。実は私の実家は稲作農家を営んでいる。祖父が主に田の面倒を見ているが収入は私の両親の給与所得の方が多い、いわゆる第二種兼業農家。田植えと稲刈りは家族総出で行い、私もよく帰省して手伝った。先日、父から「うちの米が近畿で一番になった!」と連絡があった。農機具メーカー主催の展示会があり、米のおいしさコンテストなるものが開かれた。

そこである機械(米の糖度や水分などを計測して点数を付ける)が、父の持ち込んだ米に最高得点を付けたとの事。たくさん祝福を受け、とても誇らしい気持ちで帰ったそうだ。これまでも「どこの米よりも美味しい」と言ってもらう事をとても誇りにしていた家族は、それが数値として評価された事をとても嬉しく思い、また来年からさらなる工夫と努力をしようと決意した、との事。家族の苦労を知る私は、遠いイギリスの地で涙が出そうになった。これまでも試行錯誤の連続で、農薬を有機肥料に変え、品種改良を行い、今年は最高の米が出来るぞ、と期待しても台風に倒される。それほどまでに努力と工夫をしてみても農業から得られる収入は公務員である父の収入の半分くらいにしかならない。自慢ではないが、私の家族は周りの農家の何倍もの田を所有している。なので私の家族が得ている農業収入は他の農家に比べかなり多いと言える。しかし設備投資等にかかる費用はバカにならず、、、と、これが日本の農家の現状だ。

話を元に戻す。「自由貿易はすべての国々に利益をもたらす」200年以上前の経済学者デヴィッド・リカードの言葉。規制を撤廃し、自由に貿易が行える世の中には賛成だ。それが資本主義の原則であり、工夫、努力を怠る者が淘汰されていくのは市場原理だからだ。しかし農業、特に日本の主食である米の関税を撤廃し、安い米が日本に入ってきて、第一次産業である農業が淘汰される。それで日本が豊かになったと言えるのか。

農協主導の時代が長く、価格と品質のコントロールを農協に任せてしまった結果が今であることは事実。しかし効率化のみを考えた場合、いかに技術や品種を改良しても、平らな土地の少ない日本が大陸諸国に勝てないのは火を見るより明らかである。それでも農家一軒一軒は時に理不尽な天候と戦い、後継者不足の中で何とか消費者に喜んでもらおうと米を作り続けてきた。現在のお米の品質と供給の安定は、農家の人達の努力の結果に他ならない。そんな産業を切り捨てる事が国の進むべき道だとは思いたくない。

日本人の主食であるお米。日本人ひとりひとりに愛される、日本でしか作れない日本のお米は、もはや伝統工芸品ならぬ、伝統農作物と言える。日本の文化、伝統を守るために幾多の保護がなされているのと同様、稲作も守られるべきである。少なくとも、農家不在の中で安直に農家を切り捨てるような論調にはならないことを願う。残念ながら現段階では、関税、補助金等の方法しか無く、具体的な解決策は示せない。そしてここは感情論を述べる場所でもないのかもしれない。しかしTPPへの参加是非の議論をきっかけに保護、切り捨てと言った議論ではなく、共存共栄の議論を進めて欲しい。

私の願いは一つ。日本の農家のみなさんに、これからも世界に誇れる米を作り続けてもらいたい。
(中山星児 ヘンリービジネススクール(イギリス)MBA履修中 twitter@tonekikaku

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