何のフィロソフィーもない醜い税制改悪が行われる

2010年12月16日 00:49

政府税制調査会は様々な増税措置を発表している。これは産業界や識者にさんざん指摘されてきた法人税減税を実施するために、その税収減を補うためだ。大方の予想通り、所得税や住民税の控除を縮小することにより実質的に高額所得者(年収1500万円以上)に対する増税を行う。また扶養家族制度などの見直しにより個人に対して増税する。相続税も課税対象を拡大し増税することになる。法人税は現状の40%から5%引き下げ35%にする。心配されていた証券優遇税制に関しては、現行のキャピタル・ゲイン、配当に対する10%の優遇税率がさらに2年間延長されることに決まった。また法人税の減税の代わりに、減価償却制度や欠損金の繰越制度を見直すことにより企業に対して実質的な増税も行う。なお、これらが実行に移されるには次期通常国会で税制改正関連法案が成立する必要がある。要約すると、名目の法人税以外はほぼ全ての項目において増税が行われる見通しである。


筆者は常日頃から税制というのものが国の形を作ると考えている。そしてこの政府税制調査会の方針にはあきれているというか、非常に落胆している。名目の法人税をたったの5%下げること以外、基本的に全て増税だが、その背後に何のフィロソフィーも見えず、ただただ政治家のあさましいポピュリズムと官僚の同じくあさましい保身がぶつかり合っただけの内容になっているからである。

なぜこのような税制改正(悪)案になったのか。その背後にあるものを理解することは極めて簡単である。政治家は「次の選挙」に負けたくないから、とにかく増税をしたくない。とりわけ消費税は絶対に上げたくない。また、世界的な法人税引き下げ競争により、法人税は下げざるを得ず、そのことはマスコミでも盛んに論じられてきた。よって「政治主導」で最初に消費税は上げないことと、法人税率の名目をある程度下げることが決まった。一方で、官僚の方は、もちろん自分たちの利権を拡大するために増税したい。また「利権」以前の問題としてそもそもない金は絶対に払えない。赤字国債を大量発行するにしても今のねじれ国会では非常にむずかしい。それに政治家のポピュリズムに合わせていては財政破綻してしまう。財政破綻すると官僚のような公務員は非常に困る。よってそれは何としても避けなければいけない。

その結果どういう事が起こったか。国民が気がつかないところでせこい増税のオンパレードだ。財務官僚は「消費税をあげない」と「法人税をさげる」というふたつの制約条件の中、国民になるべく気づかれないところでいかに増税するかと知恵をしぼったのだ。法人税の減税は、減価償却制度や欠損金の繰越制度の変更による増税によってある程度相殺する。また所得税、住民税などの細かな制度変更でさらに増税する。どれも見かけの税率が変わるわけではないので、国民に増税とは気づかれにくいと思ったのだろう。結局の所、日本をどうやって成長させるのか、日本をどういう国にしたいのかというフィロソフィーが全くないのだ。日本経済が停滞して、これだけ日本の競争力が世界の中で凋落していっているのに、国の方針を決めるもっとも大切な税制において、そこにあるのはただただ醜い政治家と官僚の自分勝手なエゴのぶつかり合いだけなのだ。

なぜ税制を簡素化して、日本経済を再び浮上させるヴィジョンを示そうとしないのか。それは何も難しいことじゃない。書店に行って千円ちょっと払えばどこにでも売っているのだ。法人税と所得税はアジア諸国と同等にしないといけない。法人税も所得税も20%以下のフラット課税にして、がんばる人に報いるような税制にしないといけない。国際競争力を高めるために法人税を下げるというが、法人で働いている経営者の所得税もいっしょに下げなれば、外資系企業の誘致なんてできるわけがない。これからの少子高齢化社会で、多すぎる年金を貰い、多くの資産を保有している高齢者にも等しく負担をわけあってもらうために税源は消費税に求めなければいけないのだ。今回の税制改正ではそういった真っ当な変更が全く行われずに、ただただ政治家と官僚のお互いの利権を守りあう折衷案になっているだけだ。本当に情け無い。

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