過ぎ行く貯蓄超過時代

2010年12月24日 09:43

世界的なコンサルタント会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの経営・経済研究部門であるMGI(McKinsey Global Institute)が今月初めに公表した「安価な資本との決別?」と題されたレポート(注)は、なかなか興味深いものである(その紹介記事は、ここ)。この30年間われわれは、名目でみても実質でみても低金利を享受してきた。この背景には、世界的に1980年代以降、基調的には資金不足(投資超過)から資金余剰(貯蓄超過)の経済構造に変わったことがある。しかし、このトレンドが今後大きく転換する可能性があるというのである。

(注)それにしても、このレポートは、pdf形式以外に、iPadやSony Readerで読めるepub形式、およびKindle用のmobi形式でもダウンロード可能になっていて、私のGalaxy Tabの「ブック」アプリでも読める。英語圏は、もうここまで進んでいる。


例えば、2004年はじめから米連邦準備理事会(FRB)は政策金利の引き上げを開始したが、長期金利は反応せず、むしろ緩やかな低下を示した。こうした長期金利の動きを当時のグリーンスパンFRB議長は「謎(Conundrum)」と呼んだ。この「謎」を説明する仮説の中でたぶん最も有名なのは、バーナンキ現FRB議長の「世界的な貯蓄過剰(Global Saving Glut)」説であろう。すなわち、アジア諸国や産油国で(投資機会に対して)過剰な貯蓄が行われており、それが投資機会を求めて米国に流入してきているがゆえに、長期金利の上昇が抑えられているのだというのである。

しかし、MGIレポートは、この30年間について世界全体でみた貯蓄の額自体は増えていないと指摘する(この種の指摘は、すでにテイラーなどによっても行われている)。換言すると、貯蓄超過になったのは、投資の額の方が減ったからである。第2次大戦後の復興とその直後の高成長期に「投資ブーム」が起こったが、1980年代になると、そのブームが終息した。このことは、わが国についてはとりわけ顕著なことだが、程度の差はあれ、世界的な現象だった。先進国の成熟化に伴う投資の減少が実質金利の低下につながり、とくに1990年代以降は先進国ではおしなべて低インフレになったので、名目金利も低下した。

ところが、ここにきて新たな投資ブームが起ころうとしている。すなわち、新興諸国(とくに中国とインド)でインフラ構築や住宅関連で大規模な投資が今後続々と行われることが見込まれる。他方、高齢化の影響もあって貯蓄の方は増えそうもない。英米の家計貯蓄率は金融危機の以後は上昇しているけれども、中国で予想される減少を相殺するには不十分である。したがって、今後は再び基調的には資金不足(投資超過)の経済構造に変わる可能性があるということになる。もしそうなれば、実質金利の水準は上昇することになるだろう。1970年代以前の平均水準まで戻るとすると、現状よりも1.5%程度の上昇が見込まれるとMGIレポートは指摘している。

こうした中長期予想の精度がいかばかりのものかは定かではない。しかし、経済政策や企業経営の運営は、目先の出来事にのみ反応するのではなく、中長期的な見通しをもって行われるべきであることはいうまでもない(個人の人生についても同様であろう)。かりに実質金利が中長期的には今後上昇する可能性があるというのであれば、それへの対応も考慮すべきである。一番に問われるのは、財政の持続可能性である。GDPの2倍を超すような公的債務を金利が上昇する中で維持していけるのかと問われれば、否定的な答えをする以外にない。われわれに時間的余裕がいつまでも残されているわけではないとの警告として、このMGIレポートの内容を受け止めるべきであろう。

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