モノづくり神話はそろそろ捨てるべきです

2010年12月27日 13:42

つい最近まで、日本には技術力がある、もっとモノづくりの技術を磨いていけば日本はやっていけるというマスコミの論調があり、またそう思っている人も多かった思います。
それは過信であり、モノづくりに偏った成長戦略を描くことは、時代に逆行しており、それでは国際競争力を失うだけだと書くと、まるで国賊扱いの批判を受けたこともあります。しかし、今年に入って、技術でリードしていたはずの部品や素材で日本の企業のシェアが低下し始める異変が起こってきており、いよいよ日本の産業が直面している現実を直視しなければならなくなってきています。


このところ、日本が強かったはずの部品や素材でも韓国勢の攻勢にシェアを落としはじめてきています。今日の日経の社説も、リチウム電池も、液晶用の偏光フイルムも、日本はシェアを落とし、日本勢がほぼ独占してきた半導体用のシリコンウエハーも4~5年以内に韓国勢が首位に躍り出る可能性もあると危機感をつのらせています。
政策と経営で韓国への巻き返しを急げ:日本経済新聞

追い上げてくるのは、なにも韓国だけではありません。台湾や中国の企業も手ごわいライバルになってきます。iPhoneやiPadの生産を握っている台湾資本の鴻海精密工業は、来年は10兆円企業になると予測されていますが、一昨年からのSONYの米国向けや欧州向けの組み立て工場買収につづいて、日立製作所の子会社である日立ディスプレイに1000億円を出資し経営権を握ることになりました。

日立ディスプレイは小型デバイス向けの液晶で高い技術を持った企業だそうですが、海外でのマーケティングに遅れ、納入先の日本の携帯メーカーが海外で敗北してきたために、赤字が続き、資本を入れていたキヤノンも、自社の需要ではカバーできないために支援を諦め、鴻海精密工業が資本を入れることになったといいます。鴻海精密工業は着々と液晶のノウハウを手に入れてきているのです。

まだまだ、韓国勢に限らず、台湾、また中国企業の追い上げが起こってきます。その背景には、デジタル革命が起こり、製造の高度な自動化が急速に進んだことがあると思います。

かつて、80年代に日本が世界市場を席巻していた頃は、日本の工場のロボット装着率は群を抜いて世界のトップでした。しかし、製造拠点が途上国に移るにつれ、最新の製造設備が当然はいっていきます。最新の製造設備は、製造のノウハウの塊です。だから、中国の工場でも、iPhoneであれ、iPadであれ高品質で製造できるのです。しかも皮肉なことに、そのノウハウの詰まった製造設備は日本から輸出されているのです。

電子部品で日本のシェア低下が問題になりはじめましたが、しかし、同じ構図は過去にもあったことです。かつて、日本は世界でトップの造船王国でした。しかし、韓国の造船業は積極的に製造設備投資を行い、設備で日本を凌駕したため、品質もコストでも日本を上回り、一躍韓国の造船業が伸び、古い設備を抱えた日本の造船業は遅れをとるようになってしまいました。

そして、途上国での製造は、最初は組み立て工場でしかなくとも、部品や素材を日本から調達することになると、技術の詳細なデータの入手や工場の視察によって技術情報を手に入れることが可能になってきます。

イノベーションは生み出すことには長年の積み重ねが必要ですが、いったん手の内がわかってしまうと、技術開発の目標も立てやすく、効率的に模倣を行うことも可能です。日本は欧米のイノベーションに追いつくことを目標にして、キャッチアップの戦略で、製造業は急速に発展し、高度成長を遂げてきました。
技術移転は、技術を独占し、さらによほどブラックボックス化しなければどんどん起こり、防ぎようがないのです。あるいは鎖国するかですが、それでは産業が成り立ちません。

モノづくりといえば、よく、中小や零細の企業の経営が厳しいというと、マスコミは東京の大田区の町工場を取材し、その映像を流します。政治家も町の声を聴くために、大田区の町工場を訪れます。

しかし、今日のように経済がグローバル化してくると、世界でその会社しかできないという技術を持っていれば別ですが、下請け工場は、製造現場に近いところに立地しなければ成り立ちません。

海外への製造の移転は、ただでさえ人件費やインフラコストの有利さ、また需要地への物流の合理性、さらに関税がかからないこともあり、その流れを止めることは不可能で、海外に製造拠点が移っていけば、下請け企業に求められる納入までのリードタイムを短縮するためには、海外に進出するしかありません。

これから日本に求められてくるのは、急速に進んでいく海外への技術移転を前提とした競争戦略の構築です。それはイノベーションとマーケティングを一体化させた戦略になってくると思います。マーケティング戦略を抜いた技術のイノベーションは、過剰技術、過剰品質に陥り、コスト競争で負けていってしまいます。

日本はモノづくりを中心にして生きていけるという神話はもうそろそろ捨て、どうすれば国際競争に勝てるのかの議論をはじめることです。しっかり成長戦略の構想を持ち、産業転換をはかることは待ったなしです。

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大西 宏
株式会社ビジネスラボ代表

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