財政危機の歴史 - 『国家債務危機』

2011年01月16日 16:55

国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?国家債務危機――ソブリン・クライシスに、いかに対処すべきか?
著者:ジャック・アタリ
作品社(2011-01-08)
販売元:Amazon.co.jp
★★★☆☆


著者は38歳でミッテラン政権の大統領補佐官となり、その後欧州復興銀行の総裁などをつとめてEU統合の推進役となった著名な政治家だが、哲学や経済学などの本も書いている。政治家としての実績はどうか知らないが、著書の学問的な価値はゼロに近い。ペダンティックなだけで、オリジナリティがないのだ。

本書も欧州の財政についての歴史的な話が多く、目新しいことは書いてない。ただ歴史の教訓からわかることは、財政危機は大インフレをもたらし、戦争や革命などの引き金になることが多いということだ。1%ぐらいのデフレは大した弊害がないが、インフレがコントロールできなくなると、経済だけではなく国家が崩壊するリスクがあるのだ。

現在の財政危機についての議論も常識的だが、「債務危機の歴史から学ぶ12の教訓」のうち、次の部分は自明ではない。

  • 公的債務危機が切迫すると、政府は救いがたい楽観主義者となり、切り抜けることは可能だと考える

  • 主権債務危機が勃発するのは、杓子定規な債務比率を超えた時よりも、市場の信頼が失われる時である
  • 主権債務の解消には八つもの戦略があるが、常に採用される戦略はインフレである
  • 過剰債務に陥った国のほとんどは、最終的にデフォルトする

これは菅新内閣の「財政タカ派」路線に沿うものだろう。そして最後に公的債務の問題を解決するための国際協力の枠組が論じられ、著者がフランス政府に出した「アタリ政策委員会」の報告書が付録としてついている。もちろん国際協力はできればしたほうがいいが、欧州の現状はとてもそういう理想論を議論している状況ではないだろう。

ただ日本には「政府債務は踏み倒せばいい」と公言する税調の専門家委員長や、「公共事業の財源はお金を印刷すればいくらでも出てくる」という元首相など、本書の程度の常識もわきまえていない人がいるので、そういう人には本書ぐらい読んでほしいものだ。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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