落雷に負けない飛行機が携帯の微弱電波に負ける理由

石水 智尚

今朝のドア日新聞というメルマガで興味深い記事を見つけました。雷の先端部で発生しているX線を映像でとらえたのだそうです。そもそも雷がX線を発している事が初耳でしたが、その写真まであって驚きでした。近くに落雷した場合、まわりの人はX線被爆するのでしょうか。


さて、雷といえば、どこかで遠くで雷が鳴り出すと、テレビやラジオに雑音が発生する事を、私達は経験で知っています。電柱や電線に直接落ちなくとも、近所の家の電化製品が壊れる事もあるようです。10年ほど前にフィリピンのセブ市に住んでいた時、自宅の数軒先の大きな木に落雷して、我が家のテレビが壊れた事がありました。

雷というのは自然が生み出した超強力な電磁波と言えます。雷は直流からUHF帯の高周波に到る広範囲の帯域の電磁派を発生させる事が知られていましたが、今日の記事は、それが少なくともX線帯域まで広がっている事を示唆しています。下図は牛尾知雄大阪大学工学博士の広帯域電界・電磁波による雷放電の観測的研究の46頁の図4.4です。(論文を見るにはユーザー登録が必要かもしれません)図中で信号の周波数が250MHzあたりまでしかないのは、装置のサンプリング周波数が500MHzである為と思われます。

雷のスペクトラム(サンプリング周波数500MHz)

雷はいろいろなものに落ちますが、その中には飛行中の飛行機も含まれます。たとえば下記の映像は、離陸直後のボーイング747に落雷したものです。飛行機へ雷が落ちる事はそれほど珍しい事ではないらしく、多くの職業操縦士が一生のうち1回か2回は経験するらしいです。

飛行機への落雷は、非常に短時間とはいえ、VLFからX線までの帯域の電磁波を含む膨大なエネルギーが機体とその周辺を通過します。機体に直接落雷せずとも、機体の数キロ以内に落雷するだけで相当量の電磁派(HF帯・VHF帯・UHF帯の高周波エネルギー)パルスが機体へ到来します。落雷は今に始まった事ではありませんから、機内の電子装置への落雷対策は、飛行機の設計時に十分に施されていると考えるのが合理的です。

ところが、我々が利用する飛行機の多くでは、今のところ機内での携帯電話の使用を禁止されています。その理由は、機内の装置に影響を及ぼすからだと説明されています。携帯電話の電波は、たとえ数百台集めたところで、落雷時の電界強度に較べれば遥かに小さいと言えます。離着陸時に落雷しても飛べる飛行機が、携帯電話の微弱電波で制御に異常を来たすとは、なんだか腑に落ちない説明と言えます。

事実かどうか確認する方法がないのですが、以前にある掲示板で、飛行機を設計していたという人に、こんな話を聞いた事があります。携帯電話が米国に登場した時、FCCは当初、機内での使用を認めようとしていた。ところが(どこの部署だか分りませんが)政府から横槍が入り、ハイジャックなど保安上の理由で「認めない」事になったそうです。この辺の真実をご存知の方がおられれば、ぜひお話を伺いたいものです。

さて、技術の進歩は著しく、最近は機内で携帯電話を使えるようにする装置を売っている会社があります。機上から衛星経由で電話回線につなぐ装置のようです。ソフトバンクもこのサービスを利用して機内で携帯電話のサービスを開始したようです。この場合、これまでの「建前」と、新しいサービスを、どのようにして辻褄合わせしているのでしょうか。

コメント

  1. 松本徹三 より:

    携帯電話機を含む「電波を発生する機器」の使用が制限されるのは離着陸の時だけです。これは、機内の計器類が外部からの微弱な電波で誤動作し、これがパイロットの判断を誤らせることを懸念してのことだと理解しています。

    航行中に衛星を介して機内と地上との通信を可能にする方法はずっと以前から開発されており、実際のサービスも行われていました。機内ビデオのコントロールパネルの裏側が電話機のデザインになっているものをよく見かけますが、これもそのサービスの名残です。

    但し、この為にわざわざ機内備え付けの特殊な電話機を使えというのは如何にも不便なので、機内にWiFiのリンクを張って、これが衛星経由で地上につながるようにしておき、「VoIPを含むスマートフォンの全ての通信機能が機内でも使えるようにする」というのが、これからのサービスの基本だと思います。

  2. bobby2008 より:

    1. 松本さん

    まずは携帯電話の専門家からのコメントに感謝いたします。

    >携帯電話機を含む「電波を発生する機器」の使用が制限されるのは離着陸の時だけです。

    パソコンやポータブルゲーム機については仰る通りですが、携帯電話については、ドアを閉めてから開けるまでの期間は一切禁止としているキャリアが多いのではないでしょうか。酷いキャリアになると、スマホのフライトモードでの使用も禁じています。

    航空法施行規則第164条の15により常時使用できない(電源を切ってから搭乗するべき)電子機器に携帯電話とPHSが含まれています。
    http://piper.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2007/08/31/kokuji_1346.jpg

    >機内の計器類が外部からの微弱な電波で誤動作し、

    これは現実に有るのだろうか?というのがこの記事で問いかけている疑問です。それでわざわざ、離陸中の飛行機への落雷の画像を選んで、記事中で紹介しました。

  3. hogeihantai より:

    ボーイングやNASAの調査でも携帯電話がコックピットの計器に影響するという証拠は得られていません。航空機の設計においては落雷があっても安全に飛行できるようFAA米連邦航空局の規制があります。計器類は電磁シールドで落雷の電磁波から保護されているようです。携帯の使用が禁止されているのは電磁シールドは経年変化で劣化し、携帯の影響が100%排除できない事と、事故が発生した場合の被害の大きさを考慮した、ややお役所的発想のようです。詳しくはWikipediaの「Mobile phones on aircraft」を参照下さい。

    電磁波の人体に及ぼす影響も長年、論争されてますが結論が出てませんね。高圧送電線からの電磁波は癌を発生させるといった議論も決着してません。携帯の電磁波の脳に与える影響はどうなったのでしょうか?

  4. bobby2008 より:

    3. hogeihantaiさん

    >ボーイングやNASAの調査でも携帯電話がコックピットの計器に影響するという証拠は得られていません。

    有難うございます。

    飛行中の計器異常や、自動操縦時の不明な挙動がしばしば、携帯電話のせいにされてきました。過去の事例で非常に残念なのは、乗客の携帯電話の電源を切ったから異常がなおったのか、偶然の一致なのかを証明できない事です。なぜ関係者は、もう一度電源を入れて「再現性」を確認しなかったのでしょう。再現性がなければ、携帯電話が原因であると確認できません。

    もっと怖いのは、計器異常や挙動異常が機内装置のソフトのバグや、機器や機体の故障の可能性がある事です。携帯電話の為に、それらがうやむやにされてしまう事の方がはるかに大きな問題ではないでしょうか。

  5. minourat より:

    電磁波は金属面では反射されて透過しません。 飛行機の場合は、 窓のような開口部が問題になります。 しかし、 電磁波は開口部の長さより波長が長いほど減衰が大きくなります。 窓の長さが30cmとすると、 500MHz以下の周波数の電磁波は通過しなくなってゆきます。 掲載されましたスペクトル図によりますと、 雷による500Mhz以上の周波数の電磁波はずっと弱くなるようです。 周波数が高くなるほど、 雨や霧による電磁波の減衰も大きくなります。

    逆に、機内では電磁波は胴体で内側に反射され
    隅々まで伝わってゆきます。 どこかの隅で津波のように強力になることもなきにしもあらずです。

    学生時代にはアマチュア無線に興味があって、 ついでに第一級無線技師の資格も取ったのですが、 この分野の仕事には就きませんでしたので、 ほとんど忘れました。 しかし、電波法が変わっていなければ、 どんな無線設備でも法律上は運用できます。

  6. minourat より:

    もうひとつの可能性は、 機内で使用される電子機器の発生する電波が窓から外にでて、離着時に使用される電波高度計の電波に干渉するのを防ぐためだとおもいます。 電波高度計は滑走路から反射される微弱な電波をとらえなければなりません。

    本当のことは知りません。

  7. bobby2008 より:

    5. minouratさん

    >電磁波は金属面では反射されて透過しません。

    少なくとも携帯電話の電波は、機体で遮断されていないようです。なぜならドアを閉めた後に、まだ機内で電話している人を、中国の国内ではよく見かけます。

    雷本体から輻射される高周波の電磁波(ラジオやテレビに入るノイズと同じ信号)で、窓(一番大きなものは操縦席の窓?)の長さより短い波長の信号は、機内へ侵入するのではないでしょうか?

    故に、飛行機内の重要な電子機器は、雷から輻射される電磁波に対して、個別に対策を行う必要があると思われます。

    >掲載されましたスペクトル図によりますと、 雷による500Mhz以上の周波数の電磁波はずっと弱くなるようです。

    150MHzあたりまでは右肩下がりで落ちていますが、そこから250MHzまではレベルを保っているようにも見えます。表記されていないので、弱くなるかどうかは何とも言えません。

  8. ksmo2011 より:

    携帯が、通信に影響を与えるというのは、ほとんど迷信です。
    同様にして、病院でも、列車の中でも、或いは、ペースメーカーに与える影響についても、全て迷信です。
    一見、影響があるように見える現象は、実は、高周波の電波によるのではなくて、振動モーターの磁束による低周波振動の影響が一番大きいようです。