チャイナ・リスクと綿価格高騰に襲われるアパレル業界

大西 宏

つい先日、アパレル業界の方から綿価格の上昇に悲鳴をあげているというお話を伺いました。確かに先物市場の価格チャートを見ると、昨年の夏から価格が高騰しはじめ、現在では昨年の二倍を超えて跳ね上がっています。異常な価格高騰に、おそらくタオルや寝具業界はもっと深刻な影響をうけているものと思います。

米国綿相場 チャート | 米国綿 先物チャート | 米国綿価格チャート


新興国の需要急増や、パキスタンの大洪水などによる産地の不作が重なったことが高騰の理由だといわれていますが、それよりも、欧米の金融緩和政策で余った投機資金が、コモディティ市場に流れこんできた影響が大きいものと思われます。

実際の需給関係ではなく、需給バランスが崩れそうだというネタがあれば、そこに資金が殺到して、価格が高騰することは原油価格が高騰したときにまざまざと見せつけられました。

衣料品などの価格上昇は避けられなくなってきているようです。日経によると「まとまった規模の生産量が長期的に確保できるスーパー最大手のイオンなどでは、現在のところ大きな影響は出ていない」とことですが、本当でしょうか。水面下では、値上げを求める納入業者に圧力をかけ、価格維持をしているという話も聞こえてきます。

原材料の高騰だけでなく、中国の縫製工場は、人件費高騰の煽りを受けてきていること、また電子機器などの工場との賃金格差で労働力が流出しはじめ、人不足も起こっているようです。
ジェトロが行なった2009年の中国での賃金実態では、製造業の作業員の月額給与は、石油製品で1、802元、電気機械で1,785元ですが、衣服・繊維は1,417元でしかありません。

そうなると、人手に頼る縫製工場の製造能力が落ち、当然、ウォルマートやH&Mなどの世界の巨人との工場の争奪戦も激しくなってきます。

そういったリスクを避けるために、アパレル業界は、バングラデシュやベトナムなどの東南アジアへ生産拠点を移しはじめていますが、人件費が中国よりもはるかに安いとしても、生産条件の整った中国と同じようにやっていけるとは限りません。

材料高騰、製造コストの上昇、供給不足という不安材料を抱えてくると、低価格で伸びてきたビジネスのコスト競争優位の構造も揺らいできます。

さて中国ですが、今年の景気見通しでは、中国での需要増に期待する声が多く聞かれました。しかし中国はインフレ問題だけでなく、2011年問題を抱えており、先行きが不透明です。

2011年問題とは、世界金融危機への対処で、中国は総額4兆元の景気刺激策としての公共投資のプロジェクトが今年終わり、昨年のように高い経済成長率を保てなければ、数十万人の失業者が生まれる可能性があることです。
さらに深刻なのは、景気刺激策で地方債務が133兆円に達しているとさえいわれています。その債務を、土地売買で償還を行っていたのですが、不動産引き締め政策が出されてから土地売買で融資償還ができなくなったようで、地方政府の財政危機の懸念も高まっているようです。


中国で“隠れ借金”の懸念が高まる:日経ビジネスオンライン :

中国地方政府に隠れた債務、今後焦げ付く可能性=全人代財政経済委員会委員 | ビジネスニュース | Reuters :

日本の各企業が中国だのみの経済成長を目論んでいるとすれば、リスクも大きいということでしょう。もちろん日本にとって経済成長著しい中国市場は魅力的でしょうが、やはり、より付加価値の高い産業への転換、国際競争力の高い産業が生まれてくる機運や仕組みをつくっていかないと、気がつくと、韓国がそうであったように、中国企業が日本を脅かす時代がやってくることは間違いないのです。今は、部品、素材、工作機械で強い日本ですが、さらに国際競争力のある新しい産業を創造していく課題は待ったなしだと思います。

コメント

  1. harappa5 より:

    >やはり、より付加価値の高い産業への転換、国際競争力の高い産業が生まれてくる機運や仕組みをつくっていかないと、気がつくと、韓国がそうであったように、中国企業が日本を脅かす時代がやってくることは間違いないのです。

     学生の入社したい企業ランキングを見ると、二十年以上顔ぶれが変わっていないこの国で、どのような新しい産業やより付加価値の高い産業が生まれるのですか?
     国家戦略として、新しい産業や付加価値の高い産業を生み出す戦略を作りだそうとしなければ、五年後も十年後も産業構造が変わらず、停滞が続きそうな気がします。