簡単に論破できる電波オークション反対論 パート4

山田 肇

昨年末、簡単に論破できる電波オークション反対論と題する記事を3回続けて掲載した。落札価格の高騰・新規参入による競争促進の阻害・サービス提供価格への転嫁・電波利用料制度との整合という四つの指摘はいずれも的外れである、というのが最初の記事だった。パート2では、民放テレビは地上波・ワンセグ・BS・CSと多様な電波を保有しており追加して新規免許を得ようという必要は乏しいから、免許更新時にはオークションを実施しないことにすれば、オークションは民放テレビに影響を与えないと説明した。

パート3では、日経ITProに掲載された記事の中にあった「電波オークションを導入するのであれば、放送局もタクシー会社も、NTTドコモやKDDIも、すべての企業が今使っている周波数帯をいったん返上して、その上でオークションをすべきだ。オークションの思想には賛成だが、一部の周波数だけを対象に実行することには弊害がある。」という孫社長の主張を批判した。

その後、電波オークションについて何人かと議論を重ねたが、多くが指摘したのは「免許人を選定するという権威を失いたくないので総務省官僚が反対している。」というものだった。本当に総務省の権威は失われるのだろうか。確かに、美人投票の委員長として免許人を選定する権威はなくなるが、もっと大きな権威が生まれるのだ。


電波オークション導入後の総務省のもっとも重要な役割は、オークションにかける電波を発掘することである。今も電波利用に関する実態調査は行われているが、神社祭礼用無線のように年に1回であっても「利用している」と回答があれば、総務省は認めざるを得なかった。これからは違う。本当に有効に利用され代替策はないかが検討され、神社祭礼用無線なら携帯電話に置き換えるといった方法で、オークション用電波が発掘されていくことになる。同時に、せっかく発掘した電波帯に違法電波が紛れ込んでいるのであれば、それも厳しく摘発されることになる。国有地を競売にかけるときに、その土地で勝手に商売しているものがいたら、追い出されるのと同じ理屈である。

このように、電波の利用状況を監視し、オークション用電波を発掘する権威が総務省に生まれる。その権威は大きいものだ。なぜなら、その権威は新たな国庫収入を生みだすからだ。

企業の中には二つの機能単位がある。一つは、製造や営業のように利益を直接生み出すプロフィットセンターである。一方、企画・人事・経理といった部門はコストセンターと呼ばれ、経費だけがかかる。経営陣の多くはプロフィットセンター側の出身だし、企画・人事・経理といった部門には常に経費削減の圧力がかかる。

財務省が幅を利かせているのは、政府にとっては唯一のプロフィットセンターだからだ。それに、今度は総務省が加わることになる。費用対効果次第ではあるが、電波を発掘する施策にいっそう金をかけようという、という意識も生まれるだろう。つまり、免許人を選定する権威を失う代わりに新たにオークション用電波発掘に関わる権威を持つのである。総務省官僚が電波オークションに反対する理屈はない。

山田肇 - 東洋大学経済学部