日本を破綻に追いこむ「60年償還ルール」 - 井上悦義

アゴラ編集部

来年度の国債発行額は「169.6兆円」にも及ぶ。

この内訳は、新規国債発行額44.3兆円(建設国債6.1兆円、赤字国債38.2兆円)、財投債14兆円、借換債111.3兆円となっている。この「借換債」とは、名前のとおり、借り換えを行うために発行される国債であるが、なぜこれほどまでに「借換債」の発行額が膨れ上がっているのだろうか。

意外に知られていないが、普通国債(建設国債、赤字国債)は、「60年」で償還すれば良いルールとなっている。


この「60年償還ルール」は、“建設国債の見合資産(つまり政府が公共事業などを通じて建設した建築物など)の平均的な効用発揮期間が概ね60 年であることから、この期間内に現金償還を終了する”(「債務管理レポート2010」P54より引用)という考え方の下、当初は「建設国債」のみに適用され、1973年度に初めて「借換債」が発行された。

しかし、“特例国債の本格的な償還を迎えるに当たり、厳しい財政事情の下で、その全額を現金償還しようとすると、極端な歳出カットや極度の負担増が不可避となり、経済や国民生活に好ましくない影響を及ぼすおそれがあったため”(同P55より引用)、1985年度からは「赤字国債(=特例国債)」にも適用され始めた。

※「赤字国債(特例国債)」:公共事業費、出資金、貸付金以外の目的で、日本政府の財政赤字を穴埋めするために発行される国債

では、例えば10年物の新規国債を600億円発行した場合に、どのような返済となるのだろうか。実は10年後に返済するのは、6分の1(10年分/60年分)の100億円であり、残りの500億円は「借換債」を発行して借り換えを行う。その「借換債」も10年国債で発行したとすると、次の10年後もまた100億円のみを返済し、残った400億円はまた「借換債」を発行する。このようなことを繰り返し、60年間で国債を返済していく-“予定だ”。(参照:同P55)

既にお気づきの方もいるだろう。

このルールが適用されて以降、1970年代や80年代に発行された国債もまだすべてを返し切っていないのだ。自転車操業もいいところだ。このルールの下、新たな国債を安易に発行し、そして都合の悪い借金返済のほとんどすべてを後世に先送り。多額の借金を残された世代にとっては「詐欺」以外の何物でもない。

今どき60年で減価償却をしている資産は、ほぼ皆無だろう。住宅購入の際に親子ローンを組んでも「50年」で返済しなければならない。なぜか、国の借金だけにこの「60年償還ルール」が採用され、誰も歯止めをかけることなく、現在に至ってしまった。

当然、このような仕組みになっているため、国債の発行残高が膨らめば膨らむほど、借り換えが必要な国債も増えていく。結果、「借換債」の発行額が膨らんでいく。近年は多額の新規国債を発行し続けていることもあり、2017年度には「借換債」だけで130兆円に達する見込みだ(「債務管理レポート2010」P24より)。

先日、2011年度予算案を基に2014年度までの歳入と歳出の見通しを推計した「後年度影響試算」が発表されたが、それによると財源不足(新規国債)は2013年度に50兆円に迫るようだ。財政法人などの財投機関向けに発行される「財投債」を含めると、毎年の国債発行額が「200兆円」に近づいていく日がまもなくやって来る。

こうなると当然怖いのが、金利の上昇だ。1%、2%の金利上昇でも、即座に利払い費が毎年2兆円、4兆円と増加していく。現在の税収は約40兆円しかなく、すでに約20兆円もの国債費(国債償還用の積み立て財源、国債の利払い費など)が無条件に税収から差し引かれ、手元に半分しか税収が残らないなか、これはとても無視できる数値ではない。安易なルールを運用し続けたツケだ。

景気回復に伴う「良い金利」の上昇であればまだしも、このままの状況を放置すれば、財政悪化懸念から「悪い金利」の上昇が起き始めるのは時間の問題だ。

日本の財政は今、大きな岐路に立っている。
(井上悦義 ブログ Twitter)

※参考資料:「債務管理レポート2010」

コメント

  1. bellydancefan より:

    60年償還ルールなんてネットを小泉時代から続けている人なら誰でも知ってると思いますよ。

    60年で償還される建設国債は、その後の借り換え債となり、民間に還元されず、プールされたままになっています。埋蔵金だとか言う人も・・・。

    銀行法では、国債の裏付けは税金になってますけどね!!