いよいよ本格的に始まったカジノ合法化の検討- 木曽崇

アゴラ編集部

一昨日、いきなり日経新聞の一面に「カジノの解禁」という文字が登場し、驚いた方も多いと思います。私のところにも朝から「一体どういうことだ?」とお問い合わせが来ており、一日中バタバタしていました。日経の該当記事はオンライン上でのリンク先が見当たらないので、まずはまだ報道を読んでいない方のために、ほぼ同じ内容の毎日新聞の記事をご紹介します。


行政刷新会議:規制・制度、250項目の見直しを提言 薬ネット販売拡大
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110127ddm005010104000c.html

政府の行政刷新会議は26日、「規制・制度改革に関する分科会」を開き、約250項目の規制・制度の見直しを提言する報告書をまとめた。今後、所管省庁と 刷新会議側による交渉と、公開の場で規制・制度の是非などを議論する「規制仕分け」を経て、3月末をめどに実際に見直す項目や政府の対処方針を閣議決定する。[…]

国際観光客誘致を進めるため、民間企業によるカジノ運営解禁も提案した。報告書では「我が国は先進国で唯一ともいえるカジノ非合法の国」と指摘し、利用者を外国人に限定するなどの検討を求めている。[…]

私なりの解説を加えますと、現在、日本国政府は内閣府行政刷新会議の「規制・制度改革に関する分科会」の中で、民主党が平成21年の鳩山政権時に発表した「新成長戦略」を体現するための改革案をまとめています。規制・制度改革に関する分科会は、

  • グリーンイノベーション
  • ライフイノベーション
  • 農林・地域活性化
  • アジア経済戦略、金融等

の4つを重点検討分野として定めており、カジノ合法化の検討が行われているのは、このうちの「地域活性化」を担当するワーキンググループ(WG)です。我が国では観光庁においてもカジノ合法化の検討が行われていますが、現在の観光庁の視点はMICE振興としてのカジノ導入の検討です。行政刷新会議の掲げる地域活性化を視点とした検討とは、少し観点が違うことも注目です。

現在行われている中間発表においてWGは、

  • 世界的に見て、カジノは魅力的な娯楽性を有する重要な観光資源であり、雇用・税収面で多大な経済効果を生み出す。
  • カジノ合法化の遅れは観光産業の国際競争力を相対的に弱める

というカジノに対する基礎的な考え方をすでに示しています。そして、そのスタンスを前提に「公営競技等に対して適用除外となっている賭博罪について、民間事業者がいわゆるカジノを運営する場合においても適用除外とする方策について検討すべき」結論付けています。

また、この中間発表においてこの4月から始まる平成23年度において、この検討を正式に開始するという案が示さました。

以上が行政刷新会議の発表に基づく現行の論議ですが、以下、私の分析、および考えを述べます。

まず注目すべきは、カジノ合法化は前回の参議院選の民主党マニフェストで示された「総合特区」のような特区制度の中で実現することは難しく、公営競技と同様の特別立法の制定が必要であることが示された事。特別立法の詳細に関しては、私もブログ内でまとめた事があるのでそちらをご参照頂きたいのだが、専門家の間では当然のものとして論議されてきたもの。

我が国で合法賭博が存在するわけ
http://blog.livedoor.jp/takashikiso_casino/archives/758018.html

ただし、それが改めて確認されたというのは意義高いでしょう。以下は、特別立法の必要性に関して発表された資料からの抜粋です。

  • カジノについては、刑法の賭博罪との関係から、その実施に当たっては、新たな立法措置が必要である。(警察庁)
  • いずれにしても、カジノの実施については法制化が必要(総務省)
  • 刑法第185条及び第186条は、日本国内において罪を犯したすべての者について適用される(刑法第1条)ものであり、刑法を改正して特定の主体のみを適用除外とすることはできない。(法務省)

次に注目したいのが、どこの省庁もこの案件に対しては主導権をとりたがらず「および腰」なので、結局は内閣府を中心に政治主導でこの案件を進めるしかないということ。

  • 当庁は、カジノの合法化を推進する立場にはない(警察庁)
  • カジノを法制化する法律案については、法務省が積極的に検討する主体ではない(法務省)
  • カジノについては、上記の通り、内閣府が中心となって関係省庁とともに、慎重に検討を行う必要がある。(国交省)

また、上記のように責任は負いたくはない意思は示しながらも、各省庁が「やるなら意見は言わせろ」と自らの管轄領域を主張しているのも象徴的ですね。

  • カジノを実施するための法律案が具体的に検討される場合には、治安上の観点から意見を申し述べる必要がある(警察庁)

  • 関係省庁、地方公共団体、社会全体において様々な検討がなされなければならないものと承知。なお、現在、賭博罪の特例として行われている各種の公営競技については、[…]地方財政全体に収益金を均てん化する仕組みが構築されている。(総務省)
  • 同法案が具体化した場合には、同法案のカジノに係る行為が刑法第35条によって違法性が阻却されるか否かという観点から、同法案について検討することとなる。(法務省)

正直申し上げると、以上の発表は以前から断片的に各省庁から意思が示されており、私も様々な官僚の方々とのコミュニケーションの中から聞き及んでいたことなので特に目新しいことではないです。しかし、「我が国においてカジノ合法化の検討が必要である」という意思が示されたこと、そしてその方向性に対して各省庁から改めてスタンスが公式に示されたことの2点において、今回の行政刷新会議の発表は非常に意義高いものであったと考えます。

まだまだ合法化に向けての道のりは長いですが、この4月から始まる来年度こそは、カジノ合法化が全国民的な議論となることを期待したいですね。私もこの分野の数少ない研究者として、改めて気合を入れ直した次第です。

なお、今回の行政刷新会議の発表資料は、以下のリンク先から入手できます。ご興味のある方は是非ご参照ください。
http://www.cao.go.jp/sasshin/kisei-seido/meeting/2010/subcommittee/0126/agenda.html
(木曽 崇 国際カジノ研究所 所長)