静かに報道される金融円滑化法の実態

2011年02月17日 15:36

やや旧聞に属するが、2月10日付の新聞各紙によれば、金融円滑化法により猶予された中小企業向け貸付のうち5兆円が金融機関の「隠れ不良債権」になっている可能性があると報じられている。また、3メガバンクによれば、今年3月までの時限立法であった金融円滑化法の延長を受け、一度返済猶予を申請した企業の3分の2が返済猶予を再申請する見込みだという。中小企業がこのような救済措置を受けているにもかかわらず、公的資金での「肩代わり」は既に4千億円弱に達している。この状況は、問題の氷山の一角であり、将来的には膨大な額の国民負担が発生する可能性が濃厚だ。1995年の住専処理に6850億円の公的資金を投入した際には、あれほどの騒ぎになったのに、既に国民の感覚は完全に麻痺してしまっているようだ。


拙ブログ「金融円滑化法の実態」シリーズで何度か触れているが、金融円滑化法は、表面上は中小企業を救済するという目的になってはいるものの、その実は政治家の人気獲りであり、信用保証協会の救済策だ。2008年10月から2010年12月までに信用保証協会の緊急保証制度を利用して貸し付けられた融資だけでも、残高が既に25兆円に達しており、この制度による保証は、信用保証協会が原則として80%を保証する責任共有制度の対象外であるため、事故が発生した場合には、信用保証協会が債権の全額を金融機関に代位弁済しなければならない。アジア通貨危機・日本バブル崩壊後の1998年~2000年に実施された同様の保証制度では29兆円が保証され、結果として約1割が信用保証協会により代位弁済された。政府は今回の緊急保証に関しても「最悪の場合」1割程度の代位弁済を想定しているようだが、現在、足元の経済の脆弱性は当時の比ではなく、政府のこの見通しは楽観的と言わざるをえない。専門家の中には、中小企業の7割が赤字なのだから、25兆円のうち7割は代位弁済の必要があるとする意見もあり、この意見によると、約17兆5,000億円が信用保証協会により代位弁済されることになる。

信用保証協会が金融機関に代位弁済すると、信用保証協会は求償権に基づき、債務者である中小企業や連帯保証人に弁済を請求することになる。しかし、彼らのほとんどは無資力であり、実際に信用保証協会が回収できる額は限りなくゼロに近い。そして、信用保証協会は、この損失に対して保険(信用保険制度)をかけている。信用保険制度の保険者は日本政策金融公庫(旧中小公庫)だ。日本政策金融公庫は株式会社でありながら、実体は純然たる国の機関なので、決算時に赤字を翌期に持ち越せない。結果として、単年度の損失は、すべて国庫(税)負担となるのだ。国の単年度税収が37兆円まで落ち込んでいる中、単年度の歳出でないとはいえ、17兆円を超える潜在的歳出リスクというのは、政権にとってもかなりのインパクトだ。だから、金融円滑化法により、政策的に代位弁済の発生を抑止(先延ばし)するしかない。

政府は、住専処理の際に、あまりに真正面から国民負担をうち出して世論の猛反発を受けた経緯から、なるべく目立たないように、まるで迂回融資のようなスキームをつくり、本来中小企業が負担すべき借金を国民負担のツケに回している。その思惑どおり、メディアでは事実関係が報道されるにとどまり、ほとんど議論がなされていないのが現状だ。

税の無駄遣いというと、視覚的に認識しやすいハコモノ行政や公共工事に目が行きがちだが、緊急保証制度のような目立たないところにも、さらに監視の目を向けるべきではないだろうか。中小企業救済のすべてが無駄とは決して思わないが、いたずらな延命は、日本の経済を弱体化させる効果しかないのだから。

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