原発のトラブルは何故過剰に恐れられるか ‐ 細見ちひろ

2011年03月22日 12:27

初めに断っておくが、私は原子力の専門家ではない。何kmまでの範囲が安全であるか、どのような対処が有効なのかについての考えを持ち合わせている訳でもない。しかし発表されているエリアより広い範囲―少なくとも現状では避難する必要がないとされている関東地方にまで「疎開」する人が沢山出てきている現象について、それを説明する方法を持ち合わせている。報道で、関東地方から「疎開」する人の様子を見て不安になられた方には、ぜひ知っていただきたい話である。


説明のヒントは、行動経済学にある。アゴラ読者の皆様の多くには行動経済学に関する説明は不要かもしれないが、最も代表的な例を挙げておく。

あなたは今、10万円をもらえるか、もしくは10分の1の確率で100万円がもらえるか、どちらかを選ぶ必要がある。どちらが良いだろうか。多くの人は、確実に10万円をもらえる方を選択する。次にあなたは、10万円を失うか、もしくは10分の1の確率で100万円を失うかのいずれかを選ばなくてはいけなくなる。多くの人は、10分の1の確率で100万円を失うほうを選ぶ。これが、行動経済学の最も簡単な事例のひとつである。人の判断は、常に期待値だけで合理的に下される訳ではない。

そして行動経済学の入門書とされる『経済は感情で動く』の中で、著者のマッテオ・モッテリーニは、次の12点を、高く評価されやすいリスクの特徴として挙げている。

  1. 自分が選んだリスクより、他から強制されたリスク
  2. 自分でコントロールできない災害などのリスク

  3. 死者が出るリスク
  4. めったに発生しない、マスコミで取り上げられているリスク
  5. 映像的に悲惨なリスク

  6. 広い範囲で、すぐ近くで起きたリスク
  7. 特定の人だけを襲うリスク
  8. 一度に多くの被害者が出るリスク
  9. なじみのない、新しいリスク
  10. 自然によるものより人工的なもの、先端技術によるリスク(遺伝子組み換えや放射線、原発など)
  11. 次の世代、子どもたちに影響が及ぶリスク
  12. 原因不明、謎、何が起きているのかわかないリスク

このような特徴をもつリスクは、合理的に判断される度合いを越えて、高く評価されてしまう可能性がある。解説するまでもなく、12項目のほとんどが今回の原発のトラブルに当てはまるものであることがお分かりいただけるだろう。

私たちは煙草を吸えばがんになる確率が高くなることを知っている。しかし喫煙によるがんは、事実を知った上で自分で選択するリスクである。原子力発電所は既に一般人どころか現場の人にとっても完全にコントロールはできない状況下にあるし、ごく近距離で活動する作業員等であれば、死者が出るリスクはある。原子力発電所で事故が発生する頻度は低いがマスコミでは取り上げられているし、JOCやチェルノブイリに関係する悲惨な画像は既にインターネット上に氾濫している。次の世代や子どもに影響を与える可能性があるし、テレビで毎日のように報道されてはいても、実際に現地で何が起きているのかは分からない。

つまり原発のトラブルは、合理的な判断によって見積もられるよりも大きなリスクであると「見えてしまう」のだ。

繰り返すが私は原子力の専門家ではない。関東地方からの「疎開」が過剰反応であり、未来永劫全く必要のない行為であると断定することはできない。しかし、今回のようなトラブルが発生した際に、合理的な考えを越えて過剰反応をする人間が出る理由については、上記のように説明できる。

細見ちひろ (会社員)

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