原発は経済問題である

2011年03月26日 10:50

けさの「朝まで生テレビ」は原発論争に終始しましたが、また昔の無限ループに引きずり込まれそうな感じがしたので、今までの原発論争をおさらいしておきます。

これまでの論争では、反対派が「原発は絶対安全ではない」と主張するのに対して、絶対とは答えられない政府や電力会社は論争を恐れ、情報を隠してきました。それが反対派の不信感をあおって対立が先鋭化し、原発の番組は出演者をそろえるだけでも大変です。「命は何よりも尊い」という反対派の論理に対して、推進派は「少しぐらい死ぬリスクはしょうがない」とは口が裂けてもいえないので、議論が噛み合わない。


こういう論争は不毛です。原発のリスクはゼロではないし、ゼロにすべきでもない。リスクをゼロにするには原発をすべて止めればいいが、それは解決にならない。同じ基準を適用するなら、自動車も飛行機も禁止しなければならない。本質的な問題は絶対安全かどうかではなく、経済性とリスクをどう評価するかという経済的なトレードオフです。

石井孝明さんもいうように、今のところ核燃料サイクルや安全対策のコストを考えても原発のkWhあたりコストは5.3円と火力より安い。この計算には疑問がありますが、100万kW級の規模が出せるのは原発だけです。太陽光などの再生エネルギーで原発を代替することはできない。原発はベースロードとよばれる基礎的な大規模需要をまかなうもので、再生可能エネルギーは不安定でベースロードにはなりえない。

現実的にエネルギー単価で原子力と競争できるのは、石炭火力か天然ガス火力でしょう。これを再評価するには地球環境についての民主党政権の方針を再検討し、科学的根拠の疑わしい「温室効果ガス25%削減」の公約を撤回する必要があります。それでも化石燃料は早ければ数十年で枯渇する可能性があるので、原子力というオプションを捨てることはできない。イノベーションの可能性もあります。

しかし企業のプロジェクトとして考えると、今回の事故で軽水炉は不経済な技術になってしまいました。損害と補償で数兆円ともいわれるリスクは、私企業では負担できないからです。したがって大前研一氏もいうように、今後も原発を推進するなら国がやるしかない。ここから先は安全か危険かという二者択一ではなく、日本の長期的なエネルギー戦略の問題です。

誤解を恐れずにいえば、今回の事故で明らかになったのは、軽水炉のリスクはゼロではないが、最悪の条件でも多くの人命を奪うチェルノブイリ型の事故は起こらないということです。最悪の場合に1万人以上が死ぬような技術は比較対象にもならないが、今回の程度ならトレードオフを考えることは可能でしょう。今回の事故を詳細に検討し、経済性とリスクを客観的に比較して国民が選択するしかないと思います。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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