原発を擁護する

2011年03月31日 00:57

3・11の東日本大震災は、津波により福島第一原発の深刻な事故を誘発してしまった。それ以降、メディアは毎日のようにこの原発事故の様子を報道している。そして否が応にも、日本には反原発の機運が高まってきている。反原発には「今すぐ日本中の全ての原発を止めて廃炉にしろ」という過激な意見から「今後の日本のエネルギー政策の中でなるべく原発の比率を減らしていくべきだ」という穏便なものまで様々ある。しかし筆者は、今回の”FUKUSHIMA”の原発事故の後でさえも、日本はより安全な洗練された原子力技術の確立を目指し、さらに原発を推進していくべきだと考えている。以下にその理由を示そう。


1.原子力は経済的な電力

原子力はなんといっても安い電力を供給できる。そして電力の安さは多くの産業において、国際競争力に直結する。現在、58基の原発が稼動し、電力の80%以上を原子力で生み出すフランスは、欧州で最も安く電力を供給している。中国も新規に28基の原発を建設中であり、”FUKUSHIMA”の後も、新たな50基の原発の建設計画に大きな変更はないとのことである。104基と世界最多の原発を稼動させる米国も、環境問題に対応するためスマート・グリッド、電気自動車などのテクノロジーに積極的に投資をしている。これらもCO2を排出しない原発による電力が前提だ。

今回の”FUKUSHIMA”の後、原発による電力が一見安いのは、まさにこのような事故による莫大な損害賠償金が考えられていないからだ、という意見がたくさんあった。本当だろうか? 今回、事故のあった原発から半径20km以内の住人に避難指示が出されたが、8万人程度の人々が生活していた。”FUKUSHIMA”は軽水炉型の原発としては、おそらく最悪の規模の事故になってしまったが、仮に半径20kmの地域が完全に住めなくなってしまったとしたらどの程度の賠償金が必要なのだろうか?

1世帯4人だとすると約2万世帯に保証しなくてはいけない。新しく家を買って(2000万円)、新たな生活をスタートするための支援金(500万円)を払うとしよう。そうすると2500万円x2万世帯=5千億円になる。もっと半径を広げて保証する世帯の数を2倍にしたとしてもたったの1兆円程度だ。さらに農産物などの保証に数千億円かかったとしても2兆円はいかない金額である。売上が5兆円を越える東電にとっては簡単に負担できる金額であり、原発が40年も稼働できることを考えると、万が一の事故の損害賠償を考慮したとしても、依然として原発の電力は安いのである。

2.原子力は化石燃料に頼らない

日本は、石油のほぼ100%を海外から輸入し、それも地政学的に非常に不安定な中東地域に依存している。世界同時金融危機以降は世界中の中央銀行が超緩和的な金融政策を取る中、原油価格は乱高下を繰り返しながら上昇している。石油に過度に依存することは、日本は避けなければいけないのである。

また、長い目で見れば、地球環境問題も深刻だ。原発を減らしていくとなると、石油、石炭、ガスなどの化石燃料に頼らざるをえないわけだが、いずれ枯渇し、CO2を大量に放出するこれらのエネルギーが持続可能でないことは明白だ。

3.客観的には他の電力よりも安全

原発は事故が起こった際に、非常に多くの犠牲者がでると思われているが、現実はそうではない。”FUKUSHIMA”の前までは、史上2番目に最悪の原発事故であるスリーマイルではひとりの犠牲者も出さなかった。史上最悪の原発事故であるチェルノブイリでは、高放射線環境で事故処理に従事した作業員が数十名死亡し、近隣住民が牛乳を通して摂取してしまった放射性ヨウ素131による甲状腺癌で、数百人から数千人が死亡した。

史上最悪の原発事故であるチェルノブイリを含めてみても、世界の電力をこれだけ供給する原発の貢献に比して、その犠牲者の数は少ない。炭鉱では毎年のように崩落事故があり多くの犠牲者が出る。メキシコ湾原油流出事故では多くの犠牲者が出た。石油の採掘も非常に危険な作業なのである。その上、石油を燃やす自動車の排ガスによる喘息などでは毎年おびただしい数の人が死ぬ。原発事故の犠牲者に比べれば、自動車事故で死ぬ人の数はゼロの数が3つ以上違う。ある研究によると、石油と石炭と原子力を比べた場合、1テラ・ワット・アワー当たり、石油では36人が死に、石炭では161人が死に、原子力では0.04人が死ぬ。

さらに現在主流の軽水炉型の原発では、チェルノブイリのような大事故が起こる確率はほぼありえないのである。

4.そもそも日本だけ原発をやめても意味がない

最初に書いたとおり、中国は国策としてこれから多数の原発を稼動させる。また、世界中は核ミサイルで溢れている。原子力が利用されるのは、発電所やミサイルだけではない。今回の大震災ですぐに救助に駆けつけたアメリカの空母、ロナルド・レーガンは原子力エネルギーで推進する。また今回、被災者の状況を宇宙から詳細に明らかにしたアメリカの多くの軍事衛星も、原子力電池を搭載している。

このような状況の中で、日本だけが安定したエネルギーである原子力を放棄する意味はなんだろうか? 筆者には経済的にも、安全保障的にも自殺行為にしか思えない。

5.原発は作ることより、壊すことの方がはるかに難しい

これは原発の欠点でもあるのだが、原発は作り、それを稼働するよりも、それを止めて、廃炉にする方がはるかに難しい。今回の福島第一原発の事故からすでに2週間以上が経過している。制御棒が入り核分裂反応を停止されてもなお、残りカスの核崩壊だけですごい熱と放射線をまき散らして制御不能になっている。この核燃料の「余熱」だけでもあと10年は燃え続けるのだ。核反応とはロウソクやダイナマイトのような化学的なプロセスとは全く違ったメカニズムなのである。だからこそ無尽蔵のエネルギーを生み出すことが可能なのだ。

それゆえに原発を止めて、核燃料廃棄物を適切に処理し、廃炉にすることは極めて難しく、その技術もまだ確立されているとはいえない。一番安価な方法は、原発に制御棒を入れ、核燃料の余熱を管理しながら稼動させ続けることだ。そんなリスクのある「発電しない原発」、つまり何の経済的な恩恵もない原発を抱え続けることに何か意味があるのだろうか? 地元住民にとってもそれは決していい選択肢とはいえない、と筆者は思う。

参考資料
中学生でもわかる原子爆弾と原子力発電所の作り方、金融日記
原発大国フランス:福島のリスクあっても「必要悪」-代替手段なし、Bloomberg
東芝・日立は原発戦略見直しへ、ダイヤモンド
チェルノブイリ原子力発電所事故、Wikepedia
Deaths per TWH by energy source, Nextbigfuture
原子工学概論、都甲泰正、岡芳明

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