いささか旧聞に属するトピックだが、今回の震災後、菅総理が招集した「復興会議」のメンバーが、あまりにも文系でビックリした。
梅原猛さんは個人的には大ファンだ。大学生時代、「隠された十字架」を友人にすすめられて、はまりまくった。しかし原子力は怨霊ではない。
すでにこのアゴラ誌上で何回も指摘されているが、今後の原子力発電政策は、日本のエネルギー政策の将来という枠組みのなかで、理詰めで議論されていくべき問題だ。
最近では「歎異抄」の研究など、仏教研究の著作が多かった梅原氏が、「文明災だ!」などと怪気炎を上げ、原発問題を氏の土俵に引っぱりあげようとする姿をみて、この人物に日本の将来への指針を示してもらおうという気にはなれなかった。(日本の歴史と文化の研究における氏の貢献は不朽だろうが。)
このような、総理の私的文芸サロンのごとき「復興会議」を立ち上げたことが、どれだけ今なお避難所生活をおくる被災者のためになったのか。
菅総理にかぎらず、政治家の皆さんが、あちらこちらで開催したり、参加したりしている勉強会のたぐいも、その中身を覗いてみると、お寒いかぎりだ。
今一番必要なのは、日本の「安全神話」「先進技術国神話」が崩れ去った現状を認め、その根本の原因である福島第一原発事故の当面の対処方法の確立と、徹底的な原因解明、そして稼働中の他の原発に対する改善策の策定を、同時に進めることだろう。これをしない限り、日本が失った世界の信用は二度と戻らない。
これはもちろん当事者である東京電力に任せるべき問題ではない。ましてやその直接の監督官庁であった経産省にも任せられない。
当面、この問題を菅総理に突然丸投げされたかに見える細野補佐官は、この目的のために、先の短い現政権の寿命を越えて存続するしっかりとした枠組みを作る必要がある。
1986年1月に起きたスペースシャトル・チャレンジャーの爆発事故を調査すべく、同年6月にレーガン大統領は元国務長官ロジャース氏を委員長とする調査委員会を設立した。調査委のメンバーには、ニール・アームストロングや、チャック・イェーガーといった航空宇宙開発のセレブリティもいたが、一番活躍したのは1965年に日本の朝永振一郎博士と共にノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマン博士だった。
ファインマン博士は、時にはロジャース委員長の不興をかいながらも、独自にNASA関係者へのインタビュー調査を行い、NASA組織内における管理職と技術職の間におけるコミュニケーションの断絶を浮き彫りにし、特に「安全率(セイフティー・ファクター)」に関する現場とマネジメントの認識の差を暴いてみせた。
ファインマンは自分独自の見解が調査委の最終レポートに含まれなければ、調査委を辞任すると主張し、彼の調査結果は最終レポートのアペンディックスFとして掲載された。彼の結論は以下の名言で締めくくられている。
For a successful technology, reality must take precedence over public relations, for nature cannot be fooled.
技術が成功裏に適用される為には、現実はPRに優先しなければならない。なぜならば、自然はだまされないからだ。
今の日本に、ファインマンの役を引き受け得る人物は、大前研一氏をおいてほかにいないのではないだろうか。同氏による震災後の一連のYouTubeクリップをみて、そう思うのだが、どうだろう。
ついでに念を押しておくが、これは世界が納得しなければ始まらない話なので、調査委には海外からの参加者も当然必要だ。幸いフランス、アメリカなどが喜んで手を上げてくれそうなので、これを利用させていただこう。
なにはともあれ、今回その産官学複合体の癒着ぶりをあますことなくさらけ出してしまった経産省/東電御用達の学者先生たちではとてもじゃないが、つとまらない話であることだけはたしかだ。
オマケ
ロンドンの大学時代、親友にすすめられて熟読した。後半部分はロジャース調査委の回想。
オマケのオマケ
オマケのオマケのオマケ
コメント
復興については、「怨霊」をも考慮しなければならないと思います。亡くなられた方の魂を「鎮める」ということを考えなければなりません。これは、その土地で「生きていく」ためには、欠かせない考え方です。
経済的合理性の話で言えば(そして大前研一氏の言葉で言えば)「二度とあんなところに住みたくない」ということになりますが、実際には、またもとの生活をしたいと希望する方も多くいます。その気持ちは、非合理的です。
原子力政策については、当然、合理的に対策されるべきで、反原発などと言う前に、まず全国の原発の安全対策を進めるべきでしょう。今止めたって、使用済燃料が危険な状態で放置されるだけです。動いてもらっていたほうが、炉に入っているという意味で、安心だ、という議論もあるでしょう。こうしたリスクの把握と合理的な対処について、大前氏は適任です。
ただ、そうした経済的合理性の話では、「復興」を語ることはできません。復興には、人々の心という、非合理的で、神話的な働きが必要となるからです。
大前さんは適任と思いますが、ムリでしょう。なぜなら、彼はコンサル時代に日本の製造業と系列構造を束ねる某業界群とケンカしまくったからです。卸ってこわいですよ 笑
ぜひ、メンバーに入れるべきだと思います。
特に日立製作所時代の知識と経験を、いまこそ活かして欲しいと思います。
私もそう思います。氏の世界を知る見識、ブランクはあるものの原子力技術者であり、、東電の体質を知っていること。常に”日本”を考えていること。今は、そんなリーダーが必要な時代であると思います。時代が大前さんを求めてきたと。
リチャード・ファインマン博士はノーベル物理学賞受賞というより、ボンゴの名人であった事が先ず頭に浮かぶ。
長らくCALTECの教授であり、学生向けの物理学の成書が多数ある。
しかもいずれも、シンプルで分り易いと言う評判であるが、ボンゴを打つ得意気な教授の挿絵がまたユウモラスで良い。
今回の福島DAICHIの事故に関して、ファインマン博士はなんと言うであろう。非常用電源の喪失が総ての原因であると、菅首相は予算委員会の答弁で述べたが、それは正しい。 今回、非常用電源の喪失がなければ冷温停止状態に保たれ、原子炉の安全性は今回のような話題に成らなかっただろう。
筆者は現役時代に東電にRCCSの改善を提案して相手にもされなかっつた経験をもつが、東電に関わらず、電力会社は新提案にたいしてはすこぶる保守的であり、新技術の導入におよび腰であった事が思いだされる。GE設計の福島DAICHIの建設にかんしては、当初から危惧する意見が多く、いまでも探せば論文が見つかる筈である。 大半が、米国の湖や河川の岸部に建設するマーク1型原子炉を津波の危険がある、太平洋の岸部に建設して良いのかと言う意見であった
と記憶する。しかしながら、原子炉建設不可には成らなかつた。多分に良識は危険は毎年、新しい知見や新技術的で補いながらその危険性を排除する事を期待したのであろうが、しかしながら殆んど改良はされず、みすみす津波の危険を認識しながら、非常用電源のジーゼル発電機の山側への移設もされなかった。故に今回の事故は人災と言えるもんであるが、原子力と言わず、新しい知見や新技術的で補わない工業はすべからず危険と言うことである。最後に重要な技術改良が一つだけなされていた。 それはドライベントの設置で
ある。
これが最大の事故から東京を守った事は特筆せねばなるまい。
どうも,私たちは,合理性の迷子になっているような気がします.
合理性は,不合理な世の中に立ち向かう「道具」であったはずです.
「神話」とか「崩れ去った」と言う時点で,理系ではなく文系表現ですよね.
理系発想では「想定外」です.理詰めは,想定をもとに積み上げていくのです.
想定を決めるときに必要なのは文系の想像力です.
山本周五郎の話に出てくるような人の痛みを学んでおれば,こんなこともなかったのかも知れません.
このような,文系の論理を理解できなくなってきている.
そのことも含めて,梅原氏は文明災だとおっしゃっているのではないかと察します.
ウェーバーのニヒトをよくよく考えるべき時ではないかと.
私は,東電の清水社長にコストカッターというイメージを持っています.
企業財務からは合理化は是であっても,経済に非と働き,社会に非と働く一線があり,今回,それを越えたんだと見ています.
どこまでを良しとするのか.それは,「魂」の部分にかかっている.
切り口を示して下さるリーダーとして,大前氏も必要,梅原氏も必要.矢澤様も必要です.
守備範囲の異なる面々が揃い踏み,その背後を,それぞれに「そーだー!」と言う世論が後押しするとき,世の中は変わる.
誰かにお任せ.東電にお任せ.御用達の学者先生にお任せにしてきたのは,事実です.
イイとこ取りの人のせいにするのが,合理的なのか否か.
その辺り「も」,よくよく考えるべきテーマに違いありません.
「そーだー!」「そうなのか?」.議論を後押しするくらいの任は,皆が担いたいものです.
そして,決まったことには従う.どこやらの党の議員のような醜態を,国を挙げて晒さないために.
決定の前に,アタマの及ぶ範囲で,世論を担いたいものです.
大前さんはともかく、専門家を入れることは必須です。原発事故を見ても電源が落ちたという周辺部でのエラーが致命傷になっています。ろの制御は成功したのに何故よりローテクと思われる周辺部でこんなことが起こるのか。またその後の作業員の居住環境は劣悪です。いざという時には現場が最後の砦。その兵站がなぜこんなに劣悪なのか、またあのうるさい労基局がなぜ改善命令を出さないのかという監督制度も含めて検証する必要があります。文明災害等とアホな事をいっても何の役にも立たない。ファインマン流の原因の理詰めの解明と他の原発への適用、今後への指針の策定があって初めて今後事故を再発しないことにつながるのです。
調査レポートのアペンディックスFの冒頭部にも注意してください。
It appears that there are enormous differences of opinion as to the probability of a failure with loss of vehicle and of human life. The estimates range from roughly 1 in 100 to 1 in 100,000. The higher figures come from the working engineers, and the very low figures from management.
特にこの最後の文です。 また、 ファインマン氏はビデオでは、 無知の知の大切さを述べています。
氏の自伝を読んだことがありますが、 湯川秀樹先生のような高尚な自伝とちがって、 とにかくおもしろい。 特におぼえているのは、 スエーデン大使が米国で主催したノーベル賞の受賞者のレセプションに物理のことは何も知らない、 子供時代の遊び友達を招待したということです。
それかた、 氏は西洋文明の基盤は科学と「愛」を説くキリスト教といっていますから、 理詰だけというわけではありません。
> 非常用電源の喪失が総ての原因であと .. それは正しい。
> 非常用電源の喪失がなければ冷温停止状態に保たれ
ある時点までは、 こうおもわれていましたが、 そうではないようです。 非常用交流電源はだいぶ前に復旧していますが、 ECCSはまだ稼動不能です。
ファインマン先生は、 安易な受け売りをやめて、 疑問・疑いを持つことの大切さを述べているとおもいます。
> 文明災害等とアホな事をいっても何の役にも立たない。ファインマン流の原因の理詰めの解明と他の原発への適用、今後への指針の策定があって初めて今後事故を再発しないことにつながるのです。
技術とか管理機構への過信は文明病でないでしょうか? 現実を知らない管理者ほど、 事故確率を小さく見積もっています。
アップルのジョブスは理系か文系かと問われれば文系と言えると思います。
戦後の日本を支えたのは理系がリードした工業技術です。その時、日本の文系が世界に対して競争力ある文化を生み出したのはアニメや日本料理ぐらい?
金融も情報産業、マスコミも世界から置いてきぼりです。
そんな文系の代表のマスコミの日本の工業社会への批判をたまに見ると、お前らに言われたかないと思うんじゃないでしょうか。
戦後日本の発展における文系の貢献はプラマイでゼロですね。
日本にジョブスのような革新者となる文系の出現がまたれます。
日本に必要なのはKYな人です。
組織や関係省庁の空気を読んで、関係者の利害を調整するような空気が読める人は要りません。
人の感情を無視し、空気を読まずに、真実をずけずけと述べる人材が必要であると思います。
東電の幹部にはそういう人はいなさそうですね。皆、組織の空気が読める優秀な人材なのでしょう。