昨日発表された、ビンラディン殺害のニュースはあっと言う間に世界を駆け巡った。こういう場合最も反応が速いのは何時の場合も市場である。ニューヨーク原油先物市場は、中東地域のリスク後退を織り込み先週末比大きく値を下げた。
今回のビンラディン殺害をこれまでの経緯の中でどう位置付けるかである?
チュニジア発のジャスミン革命。それを受けてのエジプト動乱、結果として長きに渡り権勢を誇ったムバラク大統領の辞任。イエメン、サレハ大統領の近い将来の辞任。リビア、シリアの動乱。サウジ他湾岸諸国での市民運動。
注目すべきは、民衆が政府打倒の経験から、非暴力による社会変革の可能性に目覚め、テロで世の中は変えられない事を実感として体験した事にある。
民衆の支持を失ったアルカイダは早晩消えて行く運命にあり、このタイミングでビンラディンが殺害されたのは象徴的である。
今朝の野口氏のブログが興味深い。
最近学生たちを話をしていて、イスラムの話に及ぶと、よくある反応が「イスラムって結構まともな宗教なんだ」「イスラムってテロばかりと思っていた」というもので、こちらが逆に驚くことばかりでしたが、そのような日本人のイスラム観にビンラーデンが大いに貢献!していたことは間違いないと思います。
ところがビンラーデンのアルカイダにいたり、このような民族解放闘争(と言って良いかの問題はあるが)は違って、ある意味で無目的というか、具体的な要求実現のための手段ではなく、米国等の西側、キリスト教文明、社会に対する挑戦としてのテロが、しかも空間的にも対象的にも無差別なテロが世界中で行われることになり、イスラム=テロというイメージを世界中に与えることになりました。
勿論彼らとしても、米軍のサウディからの撤退とか、アフガニスタン、イラク戦争等具体的な要求がなかったと言えば嘘になりますが、仮に米軍がサウディから撤退したとしてアルカイダのテロが収束したとは考えられません。
その背景にはイスラム教徒が世界的に西側、キリスト教文明に圧迫され、その悪しき影響をけつつあるという認識というか脅迫観念があり、彼らの要求は現実政治の中では具体的な実現が困難な種類のものだったと思います。
さらにはそれにもまして、その手段として全世界的に無差別なテロをしたことで、上記のようなイスラムに対するネガティブなイメージを全世界に植え付けることとなったと思います。
その結果が本日の日本の新聞などが報じている世界的な反響ではないかと思います。
これは何も日本の学生に限った話ではなく、イスラム=テロ集団、の如きメッセージをアルカイダは世界に発信し続けたと思う。普通のイスラム教徒に取っては迷惑この上ない話だ。
強調したいのは、ジャスミン革命以降中東民主化運動の潮流は、アルカイダが標榜する、イスラム原理主義や反米主義とは異なり、独裁政権の指導者一族や出身部族が石油利権を独占し、多くの貧困層が置き去りに去れている事への異議申し立てであったり、アルカイダ弾圧を名目にした民主化運動への過酷な弾圧への抵抗であると言う事実である。
アメリカが共和国の長期に渡る独裁者、エジプトのムバラク大統領やイエメンのサレハ大統領を見限ったのは当然である。
さて、中東の今後である。
民主化運動とイスラム原理主義の衝突は続くであろうが、政治と宗教を分離した、政治の近代化は不可避である。イスラム法(シャリア)ではなく、憲法と法の支配を徹底する事がその為には必要である。部族毎のローカルルールも破棄されねばならない。
経済の近代化も必要である。金利の存在を認め、自らの市場を世界市場に連動さす必要がある。
しかしながら、イスラム過激派が全体的には退潮傾向にあるとしても、過激なイスラム復古主義を掲げ、民主主義や選挙制度を潰しにかかる勢力も健在で、方向性は明らかであるが、当分は両者の綱引きが続くのではと予想する。当然大きな混乱が生じる可能性も否定出来ない。
アメリカは今後、イラク、アフガニスタンから順次撤退し、中東への関与を弱めると思うが、国際経済の維持、原油市場の保護の為、サウジ他の湾岸産油国に限っては関与を継続する筈でである。
ビンラディン殺害でポイントを挙げたのがオバマ大統領である事は間違いない。過去の例を観ても支持率を今後大きく上げるのは確実である。一年半後の大統領再選は勿論今後の政権運営如何であるが、かなり有望になったように思う。
アメリカの中東関与に就いて考える時留意すべきは、電源を全く石油に依存していない事実である。
http://d.hatena.ne.jp/Chakoando/20110121/1295675342
自動車は今後EVに切り替わり、電源は原発が賄う事を予測する。
更に今後、国内でのシェールガスの増産が確実な事から中東原油への依存は減少すると思われる。
何が言いたいかと言えば、アルカイダは20年前のイラクのクエート侵攻時、軍事対抗上アメリカがサウジに駐留を決定し、これに今回殺害されたビンラディンが反発し設立したものである。当時アメリカは中東からの石油輸入が停止すれば社会が間違いなく麻痺したと言われている。しかし、もう少しでアメリカは中東の地政学的リスクとは無縁の国になりそうであると言う事実である。そして、これはアメリカの安全保障の根幹をなすと思われる。
日本は残念であるがアメリカの様には行かない。今尚、エネルギーの約半分を石油に頼らざるを得ない。
そして石油の90%を将来が海のものとも山のものとも判らない中東に依存している。
かかる状況下、日本政府は将来に渡る中東の地政学的リスクを予測し、アメリカの安全保障を前提とするエネルギー政策を学ぶべきと思う。そうすれば、原発から再生可能エネルギーへ等と軽々しくは言えない筈である。
山口 巌
コメント
いつも興味深く読ませていただいております。
但し、今回の主張はいただけません。
アメリカについてのグラフは、「発電量の熱源について」で、日本については「エネルギー源について」です。
同じ土俵で比べるものではありません。
5億キロリットルも原油を消費している国は他に無いです。
日本のエネルギー源はどうする?という論旨には賛同しますが、論理の組み立ては余り良くないと言えるでしょう。
原油高騰の影響はアメリカの方が大きいと思います。1バレル当たり同じ1ドルの高騰でも、燃料税でそもそも値段が高い日本よりアメリカのほうが変化率では大きくなりますから。
前半と後半で別の文章を読んでいるような気分になりましたが、アメリカの電源に石油が無かったのは知らなかったです。驚きました。アメリカの旺盛な石油需要はガソリンのためと聞いたことがありましたがまさにその通りなんですね。とにかく石油以外のエネルギーの開発に必死こかないとだめですね、日本は。