なぜ日本のITビジネスは出遅れるのか

2011年05月13日 09:24

グーグルが5月10日に、ネット経由の音楽管理サービスに参入すると発表した。利用者が所有するCDやネットからパソコンに取り込んだ楽曲をグーグルに送ると、ネットを経由して、自分のパソコンや携帯電話・タブレットなどにいつでも取り出せる、クラウド型サービスである。

何年も前に日本にも同じビジネスがあった。イメージシティ株式会社が提供していた「MYUTA」である。携帯電話用の形式に変換した音楽データをイメージシティのサーバにアップロードさせた後、本人の携帯電話にダウンロードして、好みの音楽をいつでもどこでも聴けるようにするというものだった。まさに「Musicbeta by Google」を先取りしたサービスであった。

「MYUTAは著作権法違反」と社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は主張した。イメージシティは、JASRACの差止請求権が及ばないことについて東京地裁に確認を求め、対抗したが、2007年5月25日に東京地裁はイメージシティの請求を棄却した。簡単に言えば、MYUTAは著作権法違反と判断したのである。

こうしてMYUTAは停止され、イメージシティはインフォコムサービス株式会に事業統合された。せっかく4年以上も前にMusicbetaにそっくりのサービスを世の中に出したのに、法律の壁に阻まれて撤退を余儀なくされたわけだ。


まったく同じことが「まねきテレビ」でも起きた。「受信者からの求めに応じて情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為」を行った事業者は、最高裁判所で敗れたのである。

日本には著作権法に「送信可能化権」と「公衆送信権」という、他国にあまり類を見ない規定があり、クラウド型サービスを提供すると、著作権者から訴えられる恐れがある。これでは、日本のITビジネスは前に進めない。先行者有利の市場で致命的に出遅れ、アメリカの落ち穂拾いを余儀なくさせられる。

政府におかれた知的財産戦略本部で、今、この問題を議論している。コンテンツ強化専門調査会が検討している「知的財産推進計画2011」のたたき台には、次のような記述がある。

様々な電子端末やスマートテレビの登場を背景に、購入したコンテンツをいつでもどこでも利用できるクラウド型サービスが登場しており、普及が見込まれている。一方、我が国においては、クラウド型サービスは、場合によっては著作権侵害に該当する可能性があるとの指摘もあり、知的財産の観点からクラウド型サービスの環境整備に向けた早急な取組が必要である。

文部科学省(文化庁)は、今後1~2年の間に「クラウド型サービスの環境整備」、具体的には「我が国におけるコンテンツのクラウド型サービスの環境整備を図るため、法的リスクの解消も含め、著作権制度上の課題について整理し、必要な措置を講ずる」ことになっている。

電子書籍ビジネスもまったく同様である。書籍データをクラウド上に集積し上手に検索して活用しようなど、だれでも思いつくことだが、今の日本では不可能なビジネスである。はたして文化庁による著作権法の改正は計画通り進捗するのだろうか。「送信可能化権」と「公衆送信権」いう、情報社会の実現を妨害する、他国に類を見ない規定は削除されるのだろうか。

情報通信政策フォーラムでは、5月24日に、コンテンツ強化専門調査会の中村伊知哉会長をお招きし、「電子書籍の動向と知財本部での議論」について講演していただくことにした。皆様、ぜひご参加ください。

山田肇 - 東洋大学経済学部

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