国債の負担・再論

2011年07月22日 09:34

国債の負担に関して、最近でもサミュエルソン・ラーナー流の議論が持ち出されることがある。ここでいうサミュエルソン・ラーナー流の議論とは、内国債と外国債(海外で起債される債券の意味で使う)を区別し、内国債の場合には負担は生じないが、外国債の場合には負担が生じるという主張のことである。しかし、資本移動が自由化されている現状においては、内国債と外国債といった区別自体があまり重要ではないし、サミュエルソン・ラーナー流の議論にもさほど意味があるとは思われない。


1年ほど前に「国債の負担」という記事で書いたように、国債の発行が将来世代の負担につながるかどうかは、発行された国債(に相当する資産)が遺産相続等を通じて将来世代に無償で継承されるかどうかにかかっている。将来世代が無償で国債を引き継いでいれば、その国債と国債償還のための税負担義務とは相殺されて負担は生じない。これに対して、将来世代が現行世代から有償で国債を購入しているのなら、その購入金額分の負担が生じることになる。

他方、サミュエルソン・ラーナー流の議論では、(1)内国債であれば、発行時点では国民の誰かの貯蓄を政府が代わりに使っているだけなので、その国が全体として利用できる資源の量に変化は生じない。国債が償還される時点でも、国民の間で再分配が生じるだけなので、利用可能な資源の総量は変わらず、国民全体としてみれば負担は生じないと主張される。

そして、(2)外国債の場合には、発行時点では海外の貯蓄を利用できることになるので、その国が全体として利用できる資源の量がその分だけ増加する代わりに、償還時点では国内の貯蓄を海外に提供することになるので、その国が全体として利用できる資源の量がその分だけ減少する。この意味で、発行時点の国民から償還時点の国民に負担が転嫁されるとみなすことができるとされる。

しかし、この(1)の場合でも、国民の間での再分配がいかなる内容のものかが問題である。それが、将来世代から現行世代への一方的な所得移転になっているならば「将来世代への負担の転嫁が生じている」といわざるを得ない。そして、現行世代の貯蓄・遺産行動がどのようなものであるかによって、再分配の内容は変わってくる。サミュエルソン・ラーナー流の議論では、世代を区別しないで国民という名の下に一括していることから、こうした問題が見えなくなってしまっている。

逆に(2)の場合にも、必ず負担が生じるわけではない。確かに発行時点で国債が海外の主体によって購入されていれば、その国債そのものが遺産として無償で将来世代に残されることはあり得ない。しかし、現行世代が別途、同額の貯蓄を行い、その貯蓄によって形成された資産(例えば、民間保有の対外資産)を遺産として将来世代に残すならば、将来世代は実質的に負担を免れることになる。

そもそも現状では、内国債として発行されていても、外国人投資家がそれを購入することが妨げられているわけではない。ある者が保有している国債を国内の別の主体に転売したら負担は生じないが、海外主体に売却したら負担が生じる、といった議論にどれほどの意味があるのかは疑問である。また、ある時点で、その国で利用可能な資源以上の資源を使えば、経常収支が赤字になって、対外純資産がその分減少するというだけであり、政府が外国債を発行していなければ、そうしたことが生じないというわけでもない。

例えば、民間企業が資源を利用する必要があるが、国内の銀行は貸してくれないというなら、海外で起債するか外銀から借りればいいだけである。資本移動が自由化されている現状において、対外借り入れ能力をもっているのは政府だけではない。(一定以上の信用力有する)民間企業もそうした能力をもっている。政府が内国債を発行し、民間企業が海外調達をその分増やすというのと、政府が外国債を発行し、民間企業が国内調達をその分増やすというのでは、本質的に何か異なる事態なのだろうか。

繰り返すと、本質的なのは、国債発行に伴って現行世代がどのような貯蓄・遺産行動をとるかである。国債発行は、発行時点での国民から償還時点での国民に負担を移転する効果をもつものに他ならない。ただし、発行時点での国民は、自身の貯蓄・遺産行動を通じて、その移転効果を相殺する行動をとる可能性がある。相殺行動がとられれば、償還時点の国民に負担が転嫁されないが、とられなければ、転嫁されるということである。

これに比べれば、内国債か外国債かといったことは二義的な話に過ぎない。国債の95%が国内で消化されていようとも、いまその国債を保有している世代が遺産として無償でその国債を将来世代に譲ってくれなければ、将来世代に負担が転嫁されることになる。

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池尾 和人@kazikeo

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