標準は普及してこそ価値がある

山田 肇

7月7日付の日本経済新聞夕刊に、国内の関連企業・研究所が共同開発した高速通信制御技術が、国際電気通信連合(ITU)で「新世代ネットワーク」の基盤技術に選ばれたとの記事が出ていた。記事によると、新世代ネットとは、途中で電気信号に変換することなしに光のまま信号を流す高速ネットワークだそうだ。めでたい限りだが、総務省は、この新世代ネットをどのようにして普及させるつもりなのだろうか。また、普及の過程でどのようにして経済的な利益を我が国にもたらすつもりなのだろうか。残念ながら、記事からはそれを読み取ることができなかった。

一方で、総務省『ICTグローバル展開の在り方に関する懇談会』は標準化活動のあり方について、意識の異なる提言を今日、報道発表した。


提言には次のように書かれている。「標準化の経済的な意義を具体化するためには、グローバル市場における展開を目指した製品やサービスの開発と並行して、デジュール標準やフォーラム標準の策定・普及に向けた積極的な貢献や、将来の市場となり得る国に対する当該標準の普及活動など、標準化を戦略的に推進することが重要である。」

実は懇談会の下に標準化戦略ワーキンググループが設置され、その構成員として僕も積極的に「経済的な意義の実現」を主張し、それが受け入れられたのである。その主張の元となったのは知的財産戦略本部で検討された国際標準化戦略である。次世代ネットの標準化が我が国産業に何をもたらすのか、総務省には提言の趣旨に沿って考えてもらいたいものだ。

ところで、電力危機が叫ばれる今、スマートグリッドに対する関心が高まっている。スマートグリッドでも標準化が始まっているが、それは「経済的な意義の実現」を展望した活動になっているのだろうか。

情報通信政策フォーラム(ICPF)では、本年度第2回目のシンポジウムを『大震災と情報通信:果たした役割と未来』と題して7月28日に開催する。野田耕一経済産業省基準認証政策課長に登壇いただき、「スマートグリッドの標準化と普及」について講演してもらうことになっている。スマートグリッドの普及は電力供給制度自体の見直しがなければ進まないし、国際市場への展開を通じて関連産業に経済的利益をもたらすものでなければならないと思う。野田課長がどこまで言及してくれるか楽しみだ。

シンポジウムには若干の余席があるので、ぜひ、ご参加ください。

山田肇 - 東洋大学経済学部