日本のマスコミは、とうとう中国に心を売ったのか?

知民 由之

連日、ドル安報道が喧(かまびす)しいが、国際的に人民元はバスケット通貨制を採ると公言した通貨であり、それにもかかわらず、未だに、対ドルでの人民元高ばかりを報道する日本国籍のマスコミは、中国に心を売ったとしたか思えない。


このところ、円やスイスフランを代表とする世界通貨に対するドル安が際立っているが、そうであれば、バスケット通貨制を採用している人民元が対ドルで高くなるのは当然である。それにもかかわらず、人民元相場に対する日本国籍のマスコミの報道が、未だに「人民元が対ドルで最高値を更新した」という、まるで、日本国内で中国寄り統制まがいの報道に固執していることに、極めて違和感を覚える。

米債務問題に起因したドル安もあり、7月末には円は対ドルで76円台に高騰した。その余波を被り、円は人民元に対しても12円/元を切ると言う、リーマンショック後の最高値を更新することにとなってしまった。リーマンショック前の2007年12月には15.31円であった人民元は、直近7月末には11.93円と実に22%も円高になった。しかし、日本国籍のマスコミで、この事実が報道されることはほとんどない。先に書いたように、人民元は対ドルで最高値を更新したと、自慢げな報道がなされるだけである。

日本経済新聞・上海支局(8月1日18:57分)発信の記事の題名は「人民元が最高値更新 」であり、記事の内容は「人民元は1ドル=6.4340元で最高値を更新し、中国当局が輸入物価の抑制などを狙い、緩やかな元高を容認しているとみられる。」となっている。しかし、まず、人民元は、対ドルで最高値を更新しているわけではない。FRBの公表している人民元相場は、例えば1981年1月は1ドル=1.53元、1990年1月は1ドル=4.73元であり、どういう基準で6.434元を最高値と言う事がができるのか、説明できない限りこの報道はウソである。

中国の為替政策は実に巧みであるが、国家の命運をになっているという自負があり、その政策は堂に入っており、また、遠大である。少なくとも1998年以前から、長期的な視野を持って行われている政策であり、日本の地場産業は、この中国の為替政策によって壊滅し、わずかに生き残った、中小企業も、今回の更なる人民元安で、息の根を止められようとしている。

古賀茂明氏の「日本中枢の崩壊」には「キャリア官僚の多くは、小学生の頃から「まあ、今日も100点なの、すごいわねぇ」と母親から褒められるのに始まって、地域で一番の進学校に入ってトップの成績だ、東大に合格した神童だ。アドレナリンは、出っぱなしで、秀才は、ただでさえ視野が狭いのに、世間から隔絶された霞が関という村社会にキャリア官僚として棲みつくと、さらにどんどん視野が狭まっていく。」と、この国のエリートのマザコン気味のひ弱さが描写されているが、中国のカバン持ち報道に徹し、中国当局に頭をなでられることをひたすら期待するような、マスコミの行動を見ていると、日本のマスコミのエリート階級も、古賀氏の書いているマザコン病のひ弱な人間像しか浮かんでこない。

極端に割安に放置されれている人民元に対して、どうして、日本中の地場産業が壊滅してしまい、今、更に有力企業までもが日本脱出を公言するようになってしまったのか、日本のマスコミは、中国のご機嫌を損ねる報道は出来ないと言うネガティブな発想は止めて、論理的・公平な報道に努める必要があり、その試金石として、少なくとも、今回の、円高局面において、人民元が対ドルで高くなったという報道はどうでもいいので、円は対人民元でも最高値を更新しているという事実を積極的に報道すべきである。