毎年、この時期になると、司法修習生への給付金をどうするか、議論されることになっています。説明しますと、司法試験合格者は、全員が1年間の弁護士事務所などで修習します。その間、給料が出ませんから、税金で支払いましょう、という制度です。
弁護士団体を中心に貸与制を止めて、税金で給料を支払う給付制に戻せと請願されていますが、私は、給付でもなく貸与でもない国民からの修習生用の募金でまかなうことを提案します。いわば、大掛かりな就職前の法曹の卵たちのインターンシップ制度です。募金は弁護士会、検察、裁判官を中心に法曹OBをメーンにした広く一般市民にも手を広げるのです。そして不足分を貸与すればよいのです。
当初、2010年11月採用の修習生(新第64期)からは給与支給を廃止し、最高裁が無利息で生活資金を貸与し修習後にこれを返済する制度予定でしたが、新64期修習開始(2010年11月27日)間際の2010年11月26日に日弁連などの要求から議員立法で給与制を1年間延長する裁判所法改正法が成立して昨年は、従来どおり、給付制に戻した経緯がありありました。
しかし、こうした司法修習生だけに高い待遇で処遇するのは、疑義を感じざるを得ません。なぜなら、他の士業から見ると、異例の高待遇だからです。税理士、会計士にこうした恵まれた制度はありません。それでも、法曹の中には、良心的に社会的弱者を助ける人もいれば、企業から多額の報酬を受ける人もいます。しかしながら、中には自己破産ビジネスにあやかり、あやしい弁護士も数多く存在していると思われます。ちなみに、弁護士の多い米国では、こうした恵まれた給付金制度はないそうです。
<司法制度の旧体制を引きずる甘やかしの悪弊制度か>
国会議員の報告では、年間司法修習にかかる費用は、個人に支払われる300万円のほかに教育する側への謝礼もあるので修習生1人に500万円ほどかかるといいます。司法試験に合格した2000人が修習するとしても総額100億円もの税金が毎年投入されているのです。
こうした恵まれた制度廃止に同情の余地もあります。法科大学院を卒業した修習生の中には多額の借金を背負って、修習する者もいると聞きます。とすれば、司法制度への信頼と感謝の念を持ち、国民に募金をしてもらうことで司法修習費用をある程度まかなうことができのではないでしょうか。また、先輩の弁護士や検察官、裁判官、法科大学院関係者などからも、支援金を募るのです。一律の修習制度そのものを見なおすきっかけにもなるでしょう。
修習制度費用の4割は、受け入れる司法関係者に流れています。つまり、無料で修習生を受け入れ、手取り足取りのOJTをしているのではないのです。例えば、この1年間に国民への司法に関する受益があったと示すのです。当然、弁護士や検察官、裁判官の中には、明らかに国民へ不利益を働いた輩もいるでしょう。
こうしたことを明示しながら、活動を募るのです。こうしたことで司法制度改革と修習生給付金とは、当初から相容れないものであると思われます。なぜなら、当初から年間3000人の法曹を誕生させることが掲げられていて、給付金総額は改革前の数倍の額になることが考えられていたためです。当然、費用がかさむこうしたした制度は、「弁護士様」「裁判官様」と少人数のために厚遇する悪弊がいまも生きているからだと思います。
<今回のポイント>
・司法修習生への給付金は募金で集めることを基本とする。
・募金は弁護士会、検察、裁判官を中心の法曹OBをメーンにした広く一般市民にも手を広げる。
・政治的な駆け引きでうやむやに給付制を維持するのは大きな国民負担でやめる。
(鈴木和夫 ジャーナリスト&consul)