もはや日本は『ものつくり』大国ではない - 黒田 啓一

アゴラ編集部

私が普段仕事で関わっているIT業界、特にシステム開発の現場では開発案件自体の受注、上流工程は大企業、後工程(開発等)については国内の下請け企業にアウトソースするという流れが当たり前のように行われている。おそらくこの図式は他の業界でも同じような構図となっているだろう。

受注した大企業は実際の開発等を行わないため技術力は蓄積されず、外向きはシステム開発を売りにしていても実際に自分たちだけでは何も出来ないという事態になってしまっているわけだ。内部事情を考えると大企業の比較的高価な労働力を使ってシステム開発を行うと割りに合わないため、ある意味合理的な判断だとも言えるが、こうした図式に詳しい顧客が『だったら安いところに直接頼むよ』と判断し始めたら大企業の存在意義はない。


得意な上流工程と、それ以降も完遂できる事に付加価値を見出そうと考えた大企業では、技術の空洞化が大きな問題として掲げられていた。つまり、空洞化という問題はかなり前から存在していてそれに対する対策は実行されていた。

しかし最近になってまたシステムの開発はアウトソースされはじめている。ただし今までとは違い、アウトソース先は国内の下請け企業ではなく海外の企業だ。一度は空洞化を問題視し内製の方向に舵を切ったが、空洞化問題を解決するメリットよりも海外の安い労働力を使ってシステムを開発するメリットのほうが大きいと判断したのだ。これから海外においても競争が激化され安くそして質の高い労働力が多く現れこの傾向は加速していくだろう。

前置きが長くなったが、今、日本で起きている空洞化とは、今まで国内の下請け企業の雇用につながっていた仕事が海外に流れている、ということであり、日本が今まで当たり前のように行ってきた国内での『ものつくり』の流れ自体が崩れてしまったということである。

大企業としても国内の下請け企業を助けるために仕事をしているわけではないので、より良い品質・低コスト・納期といった観点で経済合理的に判断すれば、日本国内ではなく海外へ仕事が流出することは致し方ないことだろう。海外へ流出を問題視し、それに対処するなら海外の安い労働力に負けないくらい安くて質の高い労働力をするのが一番だろうが日本では実現するのは困難だろう。

国境があってないものになった現代において、国内に閉じて空洞化を考えても実は意味がない。世界での経済活動においては国内での空洞化が起こるのは必然なのだ。これからも大企業は安い労働力を求めてどんどん海外に仕事を流すことになるだろう。

問題は国内の下請け企業だが、国内での『ものつくり』の流れが崩れ始めている以上、今までと同じことをやっていても到底生き残れない。パラダイムシフトが必要で大企業の規模には及ばなくとも、同じようなビジネス(安い労働力を使う側になる)に切り替えたり、『ものつくり』ではなくサービス提供側として海外を視野に入れて市場を構築するなど、状況に合わせて柔軟な動きをすることが必要だ。逆に言うとそのように動けない企業は衰退の一途を辿ることになるだろう。

まとめると、空洞化問題自体が「世界経済の流れ」を表しているものだと言えないだろうか。
(黒田 啓一)