除染はどこまで必要なのか

池田 信夫

福島原発事故の除染が、現実的な課題になってきた。細野原発担当相は、年間5mSv以下の地域は国が財政支援しないという環境省の方針に自治体が反発したことに対して「1~5mSvの地域も当然含まれる」と軌道修正したが、これによって除染の必要な範囲はどうなるだろうか。文科省の航空機モニタリングによる空間線量マップ(8月28日現在)で見てみた(クリックで拡大)。

fukushima


年間5mSv(毎時0.57μSv)だと図の「0.5-1.0」と書かれた青緑の範囲の内側、年間1mSv(毎時0.11μSv)だと図の紫の部分をを除いた福島県全域が対象になる。
ニューズウィークでも書いたように、カドミウム除染の単価(約5億円/ha)を適用すると、前者でも福島県の面積の17.5%で費用は118兆円になるが、後者だと福島県外にも大きく広がるので、1000兆円を超えるだろう。

つまり年間5mSv以上の除染は財政的に不可能であり、1mSv以上は空想の世界である。不可能な約束を政府が行なうことは、京都議定書のように結局は空手形になってしまう。実際的な基準としては、統計的に有意な健康被害の出る年間100mSv(毎時11μSv)が考えられよう。これだと図の赤と橙の地域である。これは毎日24時間、外気にさらされた場合の線量だから、十分な安全マージンが見込める。

ただ年間100mSvでも、面積でみると約300km2で、除染費用は同じ計算で15兆円にのぼる。カドミウムの場合は8000億円で30年かかったが、同じペースでやると、こっちは600年かかる。やはり空想の世界である。実際にはもっと低コストで除染を行なう技術もあるが、少なくとも1~5mSvという基準が現実的でないことは明らかだ。

「金のために生命を犠牲にするな」という強硬論もあるかもしれないが、年間1mSvというICRPの(平時の)基準には科学的根拠がなく、健康への影響は考えられない。ICRPの勧告には法的拘束力はないので、日本政府は基準を見直すべきだ。多くの科学者の合意する年間100mSvを出発点として、財政的に可能な範囲で、学校の校庭や住宅地などから除染を始めることが現実的だろう。