公的債務、経済成長、金利の関係

2011年10月25日 15:15

たまたま『週刊東洋経済』の「経済を見る眼」欄と『週刊ダイヤモンド』の「データフォーカス」欄を書く順番が重なってしまったので、今週号は両誌のそれぞれの欄に私の記事が掲載されている。両誌に書いた記事は補完的で相互に関連した内容になっている。是非、両方の雑誌を買って読んでもらいたいと希望する。

しかし、実際には別々の雑誌なので、両者とも購読していて、さらに2つの記事を関連づけて読んでもらえる読者は少ないのではないかと惧れる。それと、両欄とも厳格な字数の制限があるので、必ずしも意を尽くした説明になっていない面もある。そこで、アゴラは紙幅等の制約が少ない(というか、全くない)という利点を生かして、この場で全体として何が言いたかったのかについて若干補足的に再説しておきたい。


まず出発点となる認識は、わが国のみならずG7諸国全体でみても、2007年の金融危機の以降、公的債務残高の急拡大が生じているということである。これは、ラインハート=ロゴフが『国家は破綻する』の中で述べている歴史的経験則から、今回も全く例外ではあり得なかったことを意味している。けれども同時に、このことは、こうした状態からのソフト・ランディング的な脱却に失敗するならば、直ちに危機的な状況に陥りかねないというリスクに直面しているということでもある。こうしたリスクの存在は、現下の欧州の信用不安が示唆しているところである。

他方、財政危機からの「脱却」の方策は、論理上、
(1)高い経済成長率の実現
(2)低金利の継続
(3)外国政府や国際機関による支援
(4)財政再建(歳出削減と増税)
(5)貨幣発行益の増大
(6)デフォルト(広義で、様々な形態を含む)
の6つにしかない(Niall Ferguson(pdfファイル)による)。もっとも、わが国の場合には、(3)は選択肢にはならないと考えられる。

それで言いたかったのは、(誰も痛みなしで済みそうな感じがあるので)上記の(1)を推奨する人が多いけれども、実は(1)は(2)とセットでなければ有効ではないということである。すなわち、たとえ成長率を高めることに成功しても、同時に利子率も上昇するならば、対GDP比でみた公的債務残高の減少にはつながらない可能性が大きい。

公的債務残高/GDPの増分をΔ(公的債務残高/GDP)と書くことにすると、

Δ(公的債務残高/GDP)=(利子率-成長率)×(公的債務残高/GDP)-(プライマリーバランス/GDP)

という関係が成立する。これは、計算してみれば分かることだが、直感的に説明すると、次のような話である。

歳入から、公債に対する利払い費以外の歳出を引いた差額を「プライマリーバランス(基礎的財政収支)」と呼んでいる。このプライマリーバランスがゼロであれば、財政赤字は公債に対する利払い費に等しいということになるので、公債残高(分子)は利子率に等しいスピードで増大することになる。これに対して、GDP(分母)の増大するスピードが経済成長率である。

したがって、プライマリーバランスがゼロのとき、公債残高の対GDP比は、利子率と成長率の差の分だけ変化することになる。これが、上の関係式の右辺第1項の意味である。加えて、プライマリーバランスがゼロではなく、赤字であれば、その分だけ公債残高の対GDP比の追加的な上昇につながる。黒字であれば、その分だけ減少につながる。これが、上の関係式の右辺第2項の意味である。

経済成長率が高まれば、プライマリーバランスが改善する可能性がある。ただし、これはもっぱら実質経済成長率が高まった場合についてのことであり、名目経済成長率の上昇が主としてインフレ率の上昇によるものである場合には、最近公表された「経済成長と財政健全化に関する研究報告書」(pdfファイル)が論じているように、歳出の増加も同時に生じると見込まれることから、財政収支を改善させる効果は乏しいといえる。

しかし、かりに経済成長率の上昇に伴い、多少のプライマリーバランスの改善が見られたとしても、利子率も上昇し、上の関係式の右辺第1項の効果が第2項のそれを凌駕し続けるならば、公債残高の対GDPはむしろ上昇し続けることになる。わが国の場合には、すでに(公的債務残高/GDP)の値がかなり大きなものとなっているので、この可能性は小さなものではない。この意味で、経済成長はそれ自体として重要であるが、財政健全化の十分条件であるかのように考えるのは正しくない。

金利規制が存在していた金融自由化以前の時期には、「利子率<成長率」となる傾向がみられたけれども、金融自由化以降は、「利子率>成長率」となる傾向が支配的である。換言すると、(1)高い経済成長率の実現と(2)低金利の継続の両立は、(金利規制のような)追加的な政策手段がなければ、難しいのかもしれない(この点は、また別の機会に論じたい)。だとすると、(4)により真剣に取り組むか、さもなくば(5)や(6)がより現実味を増すということになるしかない。

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池尾 和人@kazikeo

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