経済成長の簡単な要因分解

池尾 和人

景気動向の予測のようなものはあまり当たる保証はないが、それに比べれば、人口動向の予測ははるかに確度の高いものである。20年後の20歳の人口は、現在の新生児の数を超えることはない。したがって、大規模な疫病が流行して大量の死亡者が発生する、あるいは大量の移民の流入が起こるといったことでもない限り、数十年先までの人口動態はほぼ予想通りに推移すると考えてよい。


このことは、換言すると、現在の少子・高齢化の進展も数十年前から分かっていたはずの事態だということを意味している。しかし、それにしては、われわれはあまりに事態への対応を怠ってきたように反省されるし、いまもなお怠り続けているように危惧される。分かっていても、事態に実際に直面するまでは真剣になれないという面もあろうが、例えばいま行われている社会保障と税の一体改革をめぐる政府・与党の議論ぶりをみる限りは、ここに来ても事態を直視した対応がとられようとしているように思われない。

けれども、抜本改革を先送りしていられるほど、われわれにまだ余裕が残されているのであろうか。以下の図は、「実質経済成長率=労働生産性上昇率+労働力増加率」という定義的な関係に即して要因分解して、経済成長への寄与の内訳をみたものである。

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一見して分かるように、1970年代・1980年代に比べて、1990年代・2000年代の実質経済成長率が低下したのは、労働生産性上昇率の低下によるところが大きい(この低下には、ここでは就業者一人あたりで測っているので労働時間の短縮の効果も含まれる)。この低下は、日本が先進国を追いかける段階を終わって、自ら先進国として独自に技術開発を行う必要性が強まったことによるところが大きいとみられる。

他方、1990年代までは、就業者数の変化はプラスの寄与をしていたが、2000年代以降は、労働人口が減少していくことからマイナスの寄与になる。今後の20年程度を平均すると、正の実質経済成長率を実現するためには、0.75%程度の労働生産性の持続的上昇が不可欠になる。一人あたりの実質GDPを維持するためだけにも、引退者が増えることから人口全体に占める労働人口の割合が低下するので、この(人口オーナス)効果を相殺するために、0.7%程度の労働生産性の持続的上昇が不可欠になる。

これだけの労働生産性の持続的上昇を実現できなければ、われわれは(平均的には確実に)貧しくなっていくことになる。その先(2030年代以降)はもっと大変になる。これは悪いニュースかもしれないが、良いニュースは、日本にはたくさんの非効率な産業が存在することである。すでに効率的であるならば、さらに効率化して労働生産性を向上させていくことは大変な課題である。しかし、現状が非効率ならば、それを改善することで労働生産性を向上させる余地が残されていることになる。無駄なことを止めればいいのである。

要するに、決して経済的な問題解決の余地が失われてしまっているわけではない。それゆえ、利害調整を行って、その余地を実現させるような政治的な解決能力が発揮できるかどうかこそが問われているといえる。

ただし、実はこうした議論は10年くらい前にもなされていた。事態が切羽詰まってくれば無駄は許されなくなり、効率化へ向けた、しかるべき改革が進むだろうという期待があった。ところが、この10年はそうした期待を裏切るものであった。現状維持を図れば(いままでのやり方を続ければ)現状が維持できる(いまの状態が維持できる)かのような幻想の中で、われわれは生きてきたといえる。

あるいは、まだ事態の切迫度が不足しているとも考えられるが、目先のことしか考えていないような政治的議論しか目にできなくなっている状況には改めて失望せざるを得ない。

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池尾 和人@kazikeo