デジタル教科書実現のために 教育MVNOの可能性

山田 肇

朝日新聞で、12月7日から、『教育あしたへ デジタルが来た』という特集・連載が始まった。デジタル教科書に関するシンポジウムが紹介され、「低所得の家庭にネット環境をどう保障するか」「生活保護所帯に『子供が小学校に入学したので月5000円の通信料金を負担して』というのは無理」という、僕の講演スライドが引用された。せっかくだから何を言いたかったか説明しょう。

そもそも機器・サービスを「利用する」には「購入できる」、「操作できる」、「知識がある」、「使いやすい」の四つの要素を満たす必要がある。デジタル教科書の場合、テキストから音声へといったメディア変換が容易なので、操作できる、すなわちアクセシビリティは紙の教科書よりも改善される可能性が高い。知識は教育の中で与えていけばよい。使いやすさは、複数のデバイス・コンテンツが市場に提供されれば競争で高まっていくだろう。


問題は「購入できる」である。デバイス・コンテンツは現行の教科書無償配布制度に準じて無償化できる。しかし、ネットワークはどうだろう。ブロードバンド普及率は67%だが、これは1500万世帯が未接続だということだ。これら世帯の子供が家庭でデジタル教科書を利用するにはどうしたらよいか。低所得世帯に「子供が小学校に入学したので月5000円の通信料金を負担してください」とお願いするのは無理だ。

この課題に対応するために教育用無線ネットワークを今から物理的に構築するには無駄だ。その代り、移動通信事業者に対して、教育MVNO (仮想移動通信事業者)にネットワークを開放することを義務化してはどうだろうか。これが僕の提案である。

教科書無償配布の予算からデバイス・コンテンツ費用を差し引き、残りを教育MVNOに回すとすると、回せる金額は生徒一人当たり年間1万円以下と原価割れになるかもしれない。しかし、小中高生併せて200万人以上が教育MVNOを利用し、毎年新たに20万以上が利用し始めるのだ。移動通信事業者にとって教育MVNOは若い世代を早期に囲い込むチャンスになる。「卒業してもメールアドレスはそのまま使えます」「卒業しても月2000円でブロードバンドが使えます」というような形で。

もしそれでも資金が不足するなら、周波数オークション収入の一部を振り分けるのもよいかもしれない。落札資金はもともと移動通信事業者が出したものだから、その一部を還元しようというわけだ。

山田肇 - 東洋大学経済学部