地球温暖化論の気候予測に意味はあるのか? --- 神 貞介

アゴラ編集部

論点を絞り、気象現象がカオスなら将来のシミュレーションが無意味になってしまうことを書いてみたい。

1. バタフライ効果

この分野で有名なのは、気象学者のE. N. Lorenzが考えたローレンツ方程式である。

数値計算したところ、ほんのわずかの誤差が大きな違いを招くことを発見し、バタフライ効果と呼ばれるようになった。蝶の羽ばたきがハリケーンを引き起こす話は聞いたことのある人も多いだろう。身近な例では、当日の天気予報はだいたい当たるが、一週間先の天気予報が当たらないことは経験していると思う。


このような現象をカオスといい、いろいろな分野で研究されている。地球温暖化論では世界中の学者がスーパーコンピュータを駆使してシミュレーションしているが、その学者自身が気象をカオスだと思っている。

ところがカオス性を単純に当てはめると、シミュレーションは無意味ということになってしまう。CO2増加が影響するとして、人類にとってプラスかマイナスかわからない。気候変動の最悪のケースは相転移だが、カオスで相転移は自発的にも起こる。悪い相転移(氷河期到来など)をCO2が阻止するかもしれない。もちろん悪い影響の方が多いかもしれない。それは全くわからない。確率的にどちらと聞かれてもわからない。

私は気候変動を軽視してはいない。CO2の影響が想像以上で、「原発を止めたせいで人類滅亡」という危険もあると思っている。他方で奇妙に聞こえるかもしれないが、「CO2を抑制したから人類滅亡」というケースも考えられる。カオスなら何が起こるかわからない。でも勘で言えば「大きな影響なし」だろうと思っている。

2. シミュレーションしている学者の考え

私は以前、江守正多著『地球温暖化の予測は「正しい」か?—不確かな未来に科学が挑む』を読んだことがあるだけである。シミュレーション学者の考えを十分理解しているとはいえないが、次の2点が根拠になっているようである。

(A) 過去の気象を正確に再現できるプログラムを使い、将来をシミュレートしている。

(B) 気象現象はカオスであるが、ある程度長い期間を平均すれば意味のある予測値が出せるだろう。

まず(A)について。(正確な年は忘れたが)例えば1930年と2005年の条件を与え、その間の気象を計算したところ、きわめて正確に再現できたそうである。誇らしげな文章だと感じたほどである。

しかし数学的には全く別の問題を解いていることになる。1930年と2005年での条件を与え、その間の解を求めるのを「境界値問題」と呼ぶ。カオス性が失われ、正確に再現できたのだろう。

一方、現在の気象条件をもとに将来をシミュレートすると、計算者ごとに結果はばらばらになってしまう。このような解を求めるのを「初期値問題」と呼び、カオスが現れやすい。IPCCでは、計算結果の統計をとることで確率つきで発表しているそうである。報道される予測値はこのように大雑把なのである。

次に(B)について。これは根拠があるのかわからなかった。ただ、似た例に気象庁の長期予報があり、やはりある程度長い期間を平均した予測値を出している。当たっているかといえば、疑問符がつくだろう。

3. 政策に反映させるべきか

地震予知も気候予測も研究は自由だと思っている。しかし、政策に反映できるレベルには達していないと思っている。私は3月11日に岩手にいたが、地震予知では東日本大震災は起きないはずだった。

地震と気候変動は似た点がある。過去に起きたことは分析できるが、将来起こることはわからない、ということだ。近過去の地震のことはよくわかっている。縄文時代の日本は温暖で海水面が高かったが、温暖なのは海流のせいで、現在海水面が下がったのは海水の重みで海底がへこんだからだそうである(縄文海進)。

将来はわからないのだから、危機管理として扱うしかないと思っている。軍事攻撃を受ける危険はあるが、危険をゼロにするまで防衛費をかけることはできない。地震の危険はあるが、絶対安全になるまで金をかけることはできない。気候変動があるかもしれないが、どうすれば防止できるかわからない。

金より制度と頭を切り替え、戦略を立て、基本的な備えをした後は、失敗しないことでなく失敗したときの対応を考えるべきだ。軍事面では緊急事態の制度を整えること。地震に対しては緊急時にすばやく対応できる制度を用意すること。気候変動で水害・旱魃の危険が出てきたら、堤防・灌漑・植林・移住など従来どおりの対策を行うのがよいと考えている。

神 貞介(じん ていすけ)
数学者

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