ドコモ子会社mmbiがモバキャス(NOTTV)の開局を発表した。2012年4月1日から、東名阪を中心にサービスを開始するという。月額料金420円で、リアルタイムと蓄積型のコンテンツを楽しむことができる。
果たしてNOTTVは普及するだろうか。それにはいくつもの困難がある。特別な端末が必要なことが致命的だ。受信端末はドコモから発売されるが、今のところスマートフォンとタブレット各1機種に過ぎない。先例がある。auが協力し実用化試験放送が行われたデジタルラジオは、2011年にひっそり終了した。対応機種がW44Sなどに限定されたため、普及のきっかけがつかめなかったのだ。
動画配信には他にも失敗事例がある。ドコモ動画の目玉としてBeeTVが提供されているが、2011年第三四半期末で利用者数は181万人に過ぎない。エイベックスとドコモが協力し、昨年からはスマートフォンにも対応しているのに。利用者数を増やそうとしたらauやソフトバンクでも視聴できればよいのだが、運営会社にドコモが出資しているので、それもできない。
専用コンテンツを専用デバイスに、専用コンテンツを特定のキャリアにといったビジネスモデルの成立可能性は低い。ネットビジネスではとっくに当たり前になっている(たとえば、Amazonはだれでも購入できる)のだが、NOTTVはなぜ同じビジネスモデルを踏襲するのだろうか。
その原因の一つは官主導である。総務省は2007年に「携帯端末向けマルチメディア放送サービス等の在り方に関する懇談会」を組織し、2008年に報告書を公表した。この報告書に基づき、「国際競争力の強化」「産業の振興」「通信・放送融合型サービスの実現」「携帯端末向け放送サービスの先導的役割」を果たすサービスとして、NOTTVの事業化が進められたのである。
懇談会報告から4年が経った。その間に、情報通信産業は様相を大きく変えた。スマートフォンの普及もその一つだ。それなのに4年前の古い方針にひっぱられていることにNOTTVの(予期される)悲劇の原因があるのだ。
NOTTVの帯域を別の用途に用いてよいなら、ドコモは別のビジネスモデルをトライしたかもしれない。情報通信のように変化の激しい分野では、官が産業を主導するというのはもはや幻想である。利用の条件を事細かに指定する電波免許の交付制度は改革しなければならない。
山田肇 -東洋大学経済学部-