地方でも進展する「民主主義の高齢化」 --- 小林 庸平

2012年04月17日 19:00

明治大学世代間政策研究所『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)の第1章では、小黒一正准教授が「高齢者の意見が通りやすい国」と題して、政治経済学の視点から世代間を巡る問題を扱っている。(簡潔な要約は、小黒准教授の「老齢世代と若い世代の政治力に関する基本方程式」を参照。)

高齢化による若者の政治的影響力の低下や世代間格差の問題というと、国政レベルでの課題だと思われがちだが、地方レベルでもその進展が確認されている。最近の研究動向について紹介したい。


大阪大学 大竹文雄教授と神戸大学 佐野晋平准教授は、都道府県別のデータを用いて、高齢化比率の上昇が都道府県別の義務教育費に与える影響を分析している(大竹・佐野 2009)。高齢化が進展すると、高齢者の政治的影響力が増加し、子ども向けの公的支出である義務教育費が減少すると考えられるが、理論的には高齢化によって義務教育費が減少しない可能性も考えられる。

第一の理由が現役世代の生産性の向上である。教育支出の増加によって若者の人的資本が増加し、生産性が上昇することで、現役世代の負担能力が増加し、社会保障給付を増やせるのであれば、高齢者は教育支出の増加に賛成する可能性がある。

第二は高齢者が利他的な場合である。高齢者が若年世代や将来世代のことを考えるのであれば、高齢化が直ちに教育支出に影響を与えることはない。

第三が教育支出が資本化する場合である。資本化とは、公共財や地域のアメニティの増加が、不動産の価値を高めることを言う。東京スカイツリーの建設が、周辺の土地の価値を高めるケースなどが該当する。教育支出が増加が、その地域の居住環境が改善し、資本化する場合、すでに居住している高齢者が保有している不動産の価値も高まるため、高齢化によって教育支出は減少しない可能性がある。

最後が移住である。移動の自由がある場合、各個人は自分自身の好みにあった地域に移住することが可能である。高齢者が、教育支出の高い地域から移住する場合、高齢化が教育支出に影響を与えないこととなる(こういった移住は「足による投票」と呼ばれる)。

しかし大竹・佐野(2009)の研究では、1990年代以降のデータを用いて分析すると、高齢者比率(全人口に占める65歳以上人口の割合)が1%増加によって、生徒一人当たりの地方教育費支出が0.5~0.6%低下することが確認されている。つまり、今後高齢化が進展すると、地域レベルでの子どもに対する教育支出が低下することが予想される。教育支出の低下が子どもたちの人的資本の蓄積を抑制するのであれば、将来的には経済成長への悪影響も懸念される。

また筆者らによる最近の研究(小林・林 2011)では、高齢化が就学援助給付に与える影響を分析している。就学援助制度とは、生活保護に準ずる程度に困窮している小中学生に対して、修学旅行費や学校給食費等を補助する仕組みである(就学援助制度の概要については小林(2010)を参照。)

我々の研究でも、高齢者比率が1ポイント増加すると、小学生一人当たりの年間援助額が2000円近く減少し、就学援助の受給率も低下することが確認されている。シカゴ大学のヘックマン教授らの研究でも、教育投資は低年齢児に行うことが最も効率的であることが確認されているが(例えばHeckman and Krueger 2005等を参照)、高齢化の進展によって、地域レベルでの高齢者の政治的影響力が高まり、政策が近視眼的なものになると、将来的な格差の拡大や人的資本の毀損につながることが危惧される。

明治大学世代間政策研究所
小林 庸平

参考文献
大竹文雄・佐野晋平(2009)「人口高齢化と義務教育費支出」『大阪大学経済学』第59巻第3号、103~130ページ
小林庸平・林正義(2011)「一般財源化と高齢化は就学援助制度にどのような影響を与えたのか」『財政研究』第7巻、160~175ページ
小林庸平(2010)「就学援助制度の一般財源化 -地域別データを用いた影響分析」『経済のプリズム』No.78、31~51ページ
Heckman, J. J. and Krueger, A. B. (2005) “Inequality in America”

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