電力の「グランドデザイン」の作り方

2012年04月16日 07:30

先週月曜日の記事で、私は、電力や通信については先ずは国が「グランドデザイン」を作り、各事業者がその中でそれぞれに自分達の役割を果たすべきという主旨の事を書いた。各事業者も「もし自分が国のリーダーならこうする」という提案をするのは大いに結構だが、自分達だけで決めてしまおうなどとは考えてはならない。


私の専門の通信の分野では、昔は国営の電電公社に全ての技術的な知識が集約されていて、郵政省は少なくとも技術問題になると電電公社に頼らざるを得なかった。その後電電公社が民営化されてNTTになり、京セラ系、JR系、トヨタ系、電力会社系などの幾つかのNCC(New Common Carrier)が誕生すると、郵政省は彼等を育成する事を第一義と考えたようで、「分割論」ではNTTと郵政省が真っ向から対立した。

その後、郵政省とNTTとの関係は何故か急速に「蜜月関係」に転じたが(*)、それでも、携帯通信事業などにおいては、稲盛さんや孫さんの頑張りのおかげで、ガチンコの競争環境が生まれつつある。

(*)これは邪推の域を出ないかもしれないが、この背景には、民放連の圧力を受けた郵政省(現総務省)の大幹部が、NTTを説得してNGNで性急に放送分野を蚕食する事を断念させる一方で、その見返りに色々な言質を与えたという事があるのではないかと、私は睨んでいる。

しかし、最近電力関係の事を少しだけ勉強してみて、私は驚いた。電力の分野では、通信業界に見られたような歴史的な曲折は何一つなく、首尾一貫、牢固とした独占体制が存続してきたのだ。従って、電力会社のシステム構築のやり方や機器の発注の仕方を見ると、かつての電電公社の姿が思い出される。要するに「独占企業は必ずこうなる」という事が如実に示されているのだ。

電力事業の歴史を振り返ると面白い。通信事業とは異なり、電力事業は元々は純然たる民営事業から始まっており、発電と送配電も分離していた。しかし、その頃はむしろ「過当競争が電力の安定供給を危うくする」事が懸念される状況だったので、戦時下の国家統制時代を経て、「電力の鬼」と仇名された松永安左衛門翁が、時の政府を突き上げて、現在の旧電力会社による地域独占体制を作り上げたのだった。

それ以来、電力会社には人材も集まり、常に政財界と深く結びついて、通産省(現在の経産省)をも圧倒するような力を持つに至った。技術的な知識も電力会社に集中し、電力会社に製品を買ってもらう立場のメーカーの技術者は勿論、研究費の支援を期待する学者の先生方も、心の中で何を思っていても、電力会社の不利益になるような事は何も言えない。そして、この力を支えた大義名分は、いつも変わることなく、「世界に冠たる電力の安定供給体制の堅持」だった。

しかし、今回の原発事故を境として、状況は一変した。これまでは完全に封じ込められていた「諸外国に比しベラボーに高い電気代」を批判する声が、遂に陽の目を見るようになった。具体的には、国(国民を代表する立場にある政治家と、彼等の指揮下にある官僚)が、電力会社に代わって「電力供給のあるべき姿(グランドデザイン)」を決める役割を、ようやく手中にしたと言ってもよいだろう。

それでは、国(国民)として最も望ましいグランドデザインはどうすれば描けるのであろうか? 実は、この問題は難しそうに見えても、実際にはそんなにも難しくはない。供給者側の利害を一旦忘れて、先ずは純粋にユーザーである企業や一般市民の立場に立って考えれば、それだけで、グランドデザインの健全なベースが見出し得るからだ。

ユーザーの立場に立てば、とどのつまりは、「下記の三点が保障されるグランドデザイン」が必要という事になる。

1)必要な時に必要な電力が安定して供給される。

2)ユーザーにとってのコストが総合的にみて安い。

3)節電やピークの回避によって、ユーザーは自らの努力でコストを下げる事が出来る。

しかし、国のグランドデザインを考える時には、長期的なリスクファクターも重視する必要があるから、上記の三原則には下記が追加されるべきだ。

4)将来の原発事故リスクの回避(脱原発依存)。

5)CO2削減への国際的コミットメントの遵守。

6)一部の地域に燃料等を過度に依存する事による安全保障上のリスクの回避。

さて、現在のシステムはこの要求にどのように応えているかと言えば、合格点は1)だけで、2)は最低点、3)から6)までについては、まだ白紙であり、何をどうしてよいかさえ、全く考えがまとまっていない状態のようだ。

4)、5)、6)を同時に解決しようとすれば、自然エネルギー施設を大幅に増強せねばならぬ理屈だが、そうすると、現状では、電気代の引き下げどころか、大幅な引き上げが必要になってしまいかねない。これを回避するためには、自然エネルギー分野での技術革新を加速させる一方で、先ずは下記を早急に実現する事が必要だ。

1)発電部門を自由化して、多種多様な発電(ユーザーによる自家発電や、外国からの電力輸入も選択肢の一つ)を促進し、これを効率的に組み合わせて「安定供給体制」を作る。

2)長期にわたる独占体制によって生じている筈の多くの無駄を排し、エコシステム全体を徹底的に低コスト化する。

3)全てのユーザーに、電気代を節約するインセンティブと、その為に必要な手段を提供する。

そして、この全てを実現する為には、下記の全てが必須となる。

1)電力会社の分割。具体的には、「発電部門」「送配電施設を保有・運営する部門」「小売部門」の三部門に分割(*1)する。

2)「発電部門」と「小売部門」には、新規参入者を積極的に呼び込み、活発な公正競争を実現する。

3)「送配電施設部門」については、施設保有や運営業務の重複を防ぐ事が必要故、単純に競争原理を導入する事は合理的ではない。国による厳しい監視下で「コスト・プラス・フィー」で運営される「専業の公益会社」を作る事が必要。

4)上記が全体として上手く噛み合う事を保障しつつ、且つ、「ユーザーによる節電(*2)」を促進する為に、高度な「スマートグリッド」を全国的に展開する。

(*1)「分割までやらなくとも」と主張する抵抗勢力は必ず出てくるだろうが、彼等に対して、「分割するとどんな不都合が起こるのか?」を、明確、且つ具体的に提示するよう求めるべきだ。

(*2)高度なスマートグリッドがあれば、ユーザーは、「見える化」によって節電意欲を刺激されるだけでなく、「自分は何もせずとも、不要な場合は自動的に電源が切られるようなシステム」も導入出来る。

さて、それでは、全てのエコシステムの核心となる「スマートグリッド」の仕様は、如何にして定められ、誰がそれを保有し運営するかについては、下記の考えがベースとなるべきだ。

1)基本仕様は国際標準として明確に規定し、この標準に従う限りは、国内外の誰でもが機器を製造でき、且つ、国際標準に従う通信サービスを何時でもどこでも自由に使えるようにするべき。

2)誰が運営主体になっても、競合或いは協調する関連事業者間の「相互接続」が保障されるべき(但し、アプリケーションレイヤーでは、各社が切磋琢磨して差別化を行い、サービスの質で競争する事を可能とする)。

3)スマートグリッドを保有・運営するのは、原則として「小売部門」であるべき。(彼等があらかじめ定められた「標準」に従ってサービスを行う限りは、「発電」や「送配電」を担当する各企業は、このスマートグリッドと自社のシステムとの接続をサポートしなければならない。)

さて、もしもこの様なグランドデザインが実行されるとなると、「低廉な料金」と「肌目細かいサービス」で顧客の満足度を競い合う「小売部門」の創意工夫が極めて重要となるが、それでは、誰がこの「小売部門」に参入出来るのだろうか?

先ず考えられるのは、当然、分割された既存電力会社の小売部門自身であるが、長年の独占体制に馴れきってしまった人達に、果たしてこれが出来るかどうかには疑問が残る。スマートグリッドの重要性も考えると、むしろ既に熾烈な競争環境に身を置いている既存の通信会社の方が、有力な候補者になり得るかもしれない。

また、家電量販店や建売住宅会社にも十分な参入チャンスがあるだろう。とにかく、この分野は万人に門戸を開き、百花放斉の競争が展開されるようにすることが必要だ。「電力の真の自由化」と、それによって実現可能となる「電気料金の値下げ」の為には、この事がもっとも重要だと信じて疑わない。

国家インフラを最も効率的に構築し運営しようとすれば、純粋な市場原理主義だけではうまく行かず、政府の強力なリーダーシップが必ず必要となるが、それがどういう分野で発揮されるべきかは、慎重に見極められなければならない。これまでは、しばしば、「必要なところには介入せず(政治力を持った大企業に遠慮し)、必要でないところに介入する(不要な規制で自由競争の芽を摘む)」ケースが散見されたが、今後はその「真逆」が行われる事が強く望まれている。

アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑