欧州危機の再燃が危惧されてきた。再燃と言っても、そもそも問題の本質が何も消火(解決)されていないのだが。欧州危機再燃は南欧諸国の若年失業率の高騰が一つの契機になっている。スペイン、ギリシアでは若年失業率が50%を超え、イタリアでも30%を超える。昨年の「アラブの春」の発火点となったチュニジア、エジプトでも若年の高失業率が30%を超え、それが革命的政変のエネルギーとなった。
南欧で若年高失業が発生している背景には、経済成長率の低さがある。最もましなイタリアでも1%台半ばであり、スペインやギリシアではマイナス成長だ。国際競争力の高い産業があるわけでもないのに、不完全な合成通貨ゆえに、為替が南欧経済の実力に比して高止まりしていることが大きい。
しかし、若者の高失業の最も大きな理由は、解雇規制の強さではなかろうか?特に若年失業率で欧州ナンバーワンのスペイン。この国の解雇規制の強さは有名だ。労組の発言力が政治的に強いこの国では半端ない解雇規制が敷かれている。解雇以前の問題だが、産業間、勤務地はもとより企業内の配置転換にさえ厳しい規制があり、簡単に労働者を異動させられない。正当解雇を行うためには、雇用者が、正当な解雇理由を労働裁判所に提示ないといけない。例え正当解雇を勝ち取っても莫大な解雇補償金(勤続年数一年あたり22日分)を払わねばならない。賃金も生産性ではなく地方・業種ごとの労働協約によって決定される。社会保障の雇用者負担も先進国の中では最も高い。
マイナス成長の経済の中、スペイン企業もさすがに背に腹は代えられなくなってきた。解雇の道を探るが、容易ではないので「給与の三割を支払うので5年間休暇を取って!5年後の雇用は保証します」と社員に呼び掛ける会社も出てくる始末だ。
一度雇ったら簡単にクビにできないので、スペインでは非正規雇用が全体の雇用の30%を超え、欧州で最も高くなっている。スペイン政府も解雇規制が欧州で最高の失業率の源泉になっていることは認識しており、数度に渡る改革で徐々に解雇規制を緩和しているがいまだに解雇のコストは高いままだ。
この解雇規制が、企業に高止まりする給与で安住する中高年を作り、彼らの犠牲になっているのがスペインの若者だろう。スペインまではいかないが、イタリアにも同様の強い解雇規制が残っている。
ユーロという人工合成通貨の限界から、為替を通じて、南欧経済が打撃を受けていることは深刻だ。しかし、若年の高失業問題の背景でさらに大きいのは、南欧独特の雇用規制だと思う。ユーロの崩壊の前に南欧の解雇規制への取り組みが先だし、各国でその方向で少しづつではあるが事は動き始めている。
我が国の若年失業率はついにドイツを上回った。解雇規制で犠牲になるのは常に若者である。日本の若者はこのままいけば社会保障制度でも犠牲になっていく。高齢化社会の過大な負担を少人数で負わされる我が国の若者のためにも、我が国の解雇規制についてもより建設的な議論が必要だと思う。