マーケティングとはなんぞや。私が思うに「市場を一定量(商売になる程度)にセグメントして、対象顧客のニーズを満たしてあげること」だと思います。この言葉自体が広義なのですが、ここ最近マーケティング手法が激変しているのではという気がしています。背景には顧客の趣向が細分化されたため、市場をセグメントしづらいことがあるように思うのですが、なぜそうなったのか、そして事業として成立し得る市場はどこなのかということを考えてみたいと思います。
人間の3大欲求といえば食欲・睡眠欲・性欲です。先進国においては、これらは満たされているので上位の欲求が生まれてきます。よく「マズローの欲求段階説」で解説されていますが、単純化して“認められたい”“何か欲しい”“楽しみたい”という生理的なもの以外の欲求という定義にします。昔はこれらの欲求を具現化すると、だいたい同じ財やサービスになりました。認められるためには、会社で出世したりステータスシンボルになっている物品を購入する。欲しいものは、車やブランド物のバック。余暇を楽しむのはTVや映画のマスメディアです。だいたい皆が欲している物が同じだったので、1つの財やサービスに対して顧客が膨大に存在しており市場が広かったのです。
その状況を支えていたのが、高度経済成長による潤沢な消費意欲と、マスメディアが提示する欲求の具現化です。「コレを買っておけば、コレを持っておけばとりあえず満たされる」という啓蒙をマスメディアが大衆にし続けていたので、欲しい物=テレビが奨めるものという図式が成り立っていたのです。
そのモデルが段々と変わってきた背景には2点の要因があるかと思います。まず、経済的格差が生まれ(世代間格差とも言われることが多いですね)若年層を中心に消費を行わなくなりました。そして、ネットメディアが発達した結果、みんながみんなテレビを見ているという状況ではなくなってきたのです。「欲しい物=テレビが奨めるもの」という図式が崩壊して、消費者の欲求はどんどん多様化していきました。(とはいえ、まだマスは強いと思いますが今は過渡期のような気がしています。)欲求が多様化するということは、顧客がどんどんセグメントされていくので商売のパイが小さくなってしまいます。それでは、今後はどこが大きな市場として成立していくのでしょうか。
まず1つめは「ツールや、ユーティリティの入口を押える」ということです。通信、決済、デバイス、SNS等々は、人間の欲求云々に関わらず必須となるツールやユーティリティです。これらの入口を押えている事業者はプラットフォーマーとなって莫大な市場を握ることになります。今デバイスを押えているAppleやOSを押えているgoogleがそうです。のきなみこの分野を海外の企業に抑えられているように感じますが、例えば「通信」の分野においていえば「LINE」はチャットトークアプリというユーティリティにおいて一定の入口を押えようとしています。これは「人と人との会話」という不可欠なシチュエーションを、スマートフォンデバイスに合わせて進化させたソリューションを提供したことにより、対象顧客の母数を大きく捉えることに成功したからです。また、Appleが世界制覇してくれたおかげで、アプリマーケットにて顧客を海外にも広げられる土壌が整っていたこともプラスに働いています。
2つめが「人間の欲求を包括的に満たすことの出来る仕組み」です。今までの市場セグメントでいけば「F1層」などと性別と年齢で定義していたところを、人間の欲求を横断的に満たす“仕組み”(=仕組みであって、コンテンツそのものでないところがポイント)を提供するのです。たとえばCGMサイトであるニコニコ動画は“ユーザーによる投稿動画を集約して、それに人々が共感する仕組み”です。
そして、ソーシャルゲームは“今までコンソールゲームのユーザーではなかった一般の顧客に、達成感や自己承認等の欲求を満たすことにより、段階的に課金を加える仕組み”だと思います。コンソールゲームの市場は年々縮小傾向でしたが、ソーシャルゲームは顧客を非ゲームユーザーに広げ、人間誰しもが持っている欲求を満たす仕組みを構築したところに市場の急拡大があるように思います。
そして“仕組み”という構造を持たない単体としての財・サービスに関しては趣向が細分化するため、事業規模の小さい個人事業主たちが活躍していくのではないでしょうか。
この2つめの「人間の欲求を包括的に満たすことの出来る仕組み」という領域においては、市場をどうセグメントするか、そして顧客にどういうユーザーエクスペリエンスをどういうインターフェースで与えていくかという心理的考察が非常に重要になると思います。そして、市場のセグメント手法については、俯瞰して市場を切り分けるのではなくインサイトの考察が不可欠かと思います。なぜならば、年齢、性別など目に見える項目においてセグメントするわけではないからです。このインサイトの重要性については、機会があれば別途原稿を書いてみたいと思っています。1つめのプラットフォーマーとしての立ち位置はここ数年で勝者が固定されてきた気もするのですが、2つめの領域において世界展開出来る仕組みが生まれてくることを願っています。
ちなみに文章量の関係でかき切れなかった補足をブログに書いたので、よろしかったらそちらもご覧ください。
村井愛子