アップルが新入社員に渡すメッセージがブラック企業みたいな件

常見 陽平

ジョブズが亡くなって約半年だが、時代はアップルである。みんながアップルに注目している。街に出てみてもiPhoneユーザーやMacBook Airユーザーをよく見かける(もっとも、カフェで見かける自称ノマドワーカーたちにもMacBook Airユーザーが多く、彼らはマナーが悪くて吐き気を催すことも多いのだけれど)。

そんな中、たまたまFacebookで
「Appleが新入社員に初日に渡すメッセージ」
http://www.seojapan.com/blog/apple-note
なるエントリーを発見した。まずはリンク先を見て頂きたい。みんなが「さすがアップル」と絶賛し、「いいね」を押していた。賛同した彼らの気持ちはよく分かるのだが、私は首をかしげてしまった。アップルの名前がなければ、最近話題の「明るいブラック企業」にそっくりだったからだ。若者たちよ、「やりがい搾取」「明るい過労」に負けてはいけないのだ。


このエントリーを見て「アップルはすごい会社だ」と言った人は、最近の企業におけるモチベーションアップの取り組みについて知らない人だろう。企業は従業員のモチベーションアップに躍起になっている。

「従業員にいきいきと働いてもらいたい」そういう願いはもちろん、ある。そのために、従業員を表彰する機会を設けたり、様々なレクを行ったりする。ただ、やや意地悪な見方かもしれないが、所詮企業は継続的な利益の追求をする集団である。モチベーションアップも、従業員満足度向上も所詮は利益のためであると、冷静に考えたいものだ。

メッセージの中で、吐き気を催す表現はこれだ。

「週末を犠牲にしてでも取り組みたい仕事」

一見すると美談だが、人間には休息が必要である。「24時間働く」なんて大量の滋養強壮剤を飲まされたバブル期のサラリーマンみたいなことを言って酔っている場合じゃない。

私もサラリーマン時代には一時は6時から3時まで働いていた時期があったし、22日連続出勤したこともあり、結果として過労で倒れたことが何度かある。自戒を込めて言うならば、このような「うちの会社、最高!」と、自分に酔っている高揚感こそが危険なのである。

ブラック企業はマインドコントロールが上手で、採用活動の時から「仕事は楽しい」「成長を楽しもう」とその気にさせ、入社したら「君たちは、1円も利益に貢献していない」と脅す。

こういうわかりやすいブラック企業も問題なのだけど、「仕事は楽しいから頑張ろうぜ!」「ウチは社会を変える会社だ!」とやたらとやる気に満ちている企業も考えものだ。明るいマインドコントロールもたちが悪い。そういう企業は毎日がお祭り、もっと言うと躁状態のようになっている。

この手の企業はリクルートやサイバーエージェントなどの職場でのモチベーションアップ手法を表面的に中途半端に真似している(この2社が深く考え制度と運用を工夫していることをたいてい知らない)。ただ、結果的にはいつも競わせたり、大騒ぎをさせたりしているだけになっている。若者がどんどん潰れていく。

若者とFacebookでつながっているのだが、ベンチャー企業などに勤める人たちの近況をみていると心配になる。毎日遅くまで働き、夜は飲み。週末は会社の仲間とBBQだ。BBQコンロを囲みつつ、ピースしている写真をみると誰もが「リア充爆発しろ」と言いたくなるが、そう言わなくても彼らは徐々に燃え尽きていく。

このアップルのメッセージなのだが、あくまで従業員を応援したいというメッセージなのかもしれない。ただ、アップルがというわけではないのだが、企業が発信するメッセージに下心がないはずがない。

「自分はまともな働き方をしているのか?」
「やりがい搾取になっていないか?」
冷静に見て頂きたい。

もっとも、このメッセージに共感する若者をよく見かけたので、みんなが熱くなれる職場を求めていることも確かではあるのだけど。

このエントリーをMacBook Airで書いているのが、これまた悩ましいのだけど。