モリタクの予言 --- 城 繁幸

2012年07月04日 20:07


庶民は知らないデフレの真実 角川SSC新書 (SSC新書)

モリタクという名前を聞いて、人は何を思い浮かべるだろうか。
ある程度リテラシーのある人ならアホだの二枚舌だのという言葉を連想するかもしれない。

ただ、シンクタンク時代の氏を知る人から話を聞くと、本人はいたって優秀で、事業部ごとの業績連動性を導入したごりごりの実力主義者だそうだ。「競争は悪、平等が一番」という現在のスタンスはメディア向けのキャラ設定に過ぎない。

世の中には、何らかの信念に基づいて発言する人と、単にお金儲けのためのポジショントークとして発言する人の2種類がいるが、モリタクは間違いなく後者だろう。


さて、何の一派にせよ、追い込まれれば本性が出る。信念に基づいている人達ならカルト化してますます先鋭化してしまう(目安として内ゲバや陰謀論に頼り始めたらそうだと思っていい)。

一方、単にポジショントークだった人は、冷静に現状分析をした上でポジションを変えるだけの話だ。というわけで、最近のモリタクには色んな意味で注目している。鮮やかなクイックターンぶりを見せてくれるだろうし、なにせ元が優秀なビジネスマンなだけに、彼が何を予想しているか、それ自体にも興味がある。

そういう意味では、本書はモリタクという一流電波芸人のエッセンスの詰まった一冊だ。

モリタクと言えば、例の派遣切りの際、「大企業は内部留保を使えば雇用は守れる。それをやらない経営者と株主が悪い」と共産党や社民党と一緒になって煽っていたものだが、本書ではさらりとこんなことを言っている。

普通のサラリーマンの中で、たぶん日本で一番高給をはんでいるのは、テレビ局や新聞社の正社員だろう。テレビ局の現場が予算削減に苦しんでいるのは事実だが、しわ寄せは外注・下請けが単価引き下げという形で受けているだけで、社員の給料はあまり下がっていない。

なんだ、僕と同じ意見じゃないですか。モリタク先生を信じて「正社員労組と一緒に連帯しよう」なんて言ってた人はご愁傷様です。あっさりポイされましたね。

ついでに言うと、氏は以前どこかで「公務員叩きは良くない」的なことも言っていた気がするが、こうも述べている。

国家公務員法では一般的な社会情勢に合わせた給与水準になるように国会で決めることになっている。その調査をするため人事院は毎年「事業所規模50人以上の事業所」を対象に給与実態調査を行っている。50人以上の企業と聞くと中小企業をイメージするけれど、一つの事業所の規模が50人以上だから、実は相当な大企業が調査対象になっているのだ。しかも調査対象は正社員。(中略)なにしろ非正社員の月給は正社員の半分以下だから、既得権者が非正社員を調査対象にするわけがないのだ。

少なくとも本書では公務員叩きに転向したみたいですね。

さて、そんな氏の予言だが、要約すれば、2015年前後に日本経済はクラッシュし、その後相当程度のインフレになるというもの。資産のある人は底値近くで優良資産を買いましょう、無い人はそれまでに頑張って貯めましょうというのが要旨である。

世の中には、大企業や経営者を吊るしあげたり、日銀に紙幣を刷らせまくれば問題が解決すると信じている人がいる。氏も時にそういう発言をすることがあるが、それがうけると思ったからそう言っているだけであって、もちろん真剣に信じているわけではない。自分なりの本音の分析に基づいて、本書のような布石を打ちはじめているのだろう。

というわけで今から数年後、彼の予言する時代が到来した場合の彼のポジショントークでも予想しておこう。

官僚や経営者、大企業正社員、富裕層の陰謀で、日本は長くデフレを続けさせられたあげく、今や大インフレになりました。彼らは底値で不動産等の資産を買いあさり、儲けた金で優良企業を買収し、さらに豊かになっています。
一方、庶民の実質賃金は下がり、生活はますます貧しくなりました。国の借金を返しているのは庶民なのです。

すべては私が予想した通り、年収100万円時代が到来したのです
政治的には、これ以上の大企業および富裕層の横暴を許さないために、彼らに対して強く声を上げていかねばなりません。
そして個人の生活防衛のためには、私の新著「年収100万円で生き残る方法」を買いましょうね。

きっとその頃には“ど貧乏人”がわんさと増えているだろうから、モリタク本のニーズは急増しているはず。同業は多いだろうが、彼には「デフレ時代の終焉を予言した」という実績があるので、メディアで引き続き引っ張りだこになるだろう。

特にテレビなんて貧困層唯一の娯楽番組になっているだろうから、モリタク需要は激増して今よりフローの収入も増えるのではないか。

ちなみに、その後にやってくるのは、資産を増やした富裕層と完全没落した元・中間層の超格差社会だそうだ。インフレでは分散投資する資産のある人間か賃上げされる強者が生き残り、そうでないものは没落するので、そこは筆者も氏と同意見だ。

氏曰く「金持ちが札束で貧乏人を頬をはたく時代が来る」そうだが、氏が札束ではたく側なのは間違いない。


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2012年7月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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