「世界一クリエイティブな国は日本、クリエイティブな都市は東京。」2012年4月にAdobe社が発表した国際アンケート調査結果。5年ぶりの衝撃的なレポートでした。いい意味で。
5年ぶりというのは、2007年4月、Technorati社が発表した「世界のブログで最も使われているのは日本語」という調査。世界中のブログを総計した結果、日本語サイトが37%を占め、英語36%を上回ったというものです。
日本の若い世代がケータイで猛烈に情報を発信している状況がデータとして表れ、日本人がシャイでもコミュニケーション下手でもなく、世界のトップを行くアップロード社会たることが示されたのでした。
今回の調査は、米英独仏日の各1000人、計5000人の成人に聞いた結果です。日本以外の国で日本が最もクリエイティブと評価されたのはうなづけます。ポップカルチャー、ファッション、食べ物、ケータイ文化、どれも日本は抜きんでています。アメリカは金融、IT、ハリウッドなど多くの分野で世界を引き離し、ビジネスの創造力をみせつけていますが、表現文化を一部のクリエイターだけでなく国民全体で創出する点では日本が勝ると思います。
2000年ごろにはMITメディアラボでもガングロやギャル文字の意味を教授陣が盛んに説いていましたし、2002年にぼくが帰国して子ども創造力のNPO「CANVAS」を立ち上げたり、日本ポップカルチャー委員会を発足させたりしたのも、アメリカより日本のほうがワクワクさせてくれると思ったからです。
オヤっと思ったのは、東京が他の都市を抑えて一位という結果。うれしいね。東京は銀座、渋谷、アキハバラ、いくつもの極が異彩を放っています。どこに出かけても地上最高規格の便所が用意されているホスピタリティ。コレはウマいという店を探すのはNYでは難しいけれど、コレはマズいという店に東京ではでくわしません。どの国の料理もハイレベルで食えます。こんなにイタリアやフランスの国旗を掲げている都市もないんじゃないか。気がつきゃホームのベンチでゴロ寝、でもサイフがスラれていません。この環境で放たれるクリエイティビティに注目が集まるのは必然です。
かつて東京は憧れでした。東京ラプソディ、東京の花売り娘、東京ドドンパ娘、東京だよおっかさん、ウナセラディ東京、仰ぎ見る歌がありました。だけど、クールファイブの東京砂漠や沢田研二のTOKIOのころから東京は揶揄の対象となり、全国のプチ東京化が進んで、フラットな日本が目指されました。
ぼくはバブル期の東京一極集中是正の政府方針に異を唱えていました。逆に東京への集中を強化し、NY、ロンドン、パリ、上海、ソウルに対抗しなければ、日本が沈下する。そう、東京は、その後も独り気を吐いて、六本木ヒルズ、赤坂サカス、丸ノ内再開発、東京ミッドタウン、渋谷ヒカリエ、次々と開発を続けています。東京、エラい。
ただ、今回のレポートでとても気がかりな点が2つあります。
まずは日本の自己評価が低いこと。他国が日本を評価しているのに比べ、日本のみが自分をクリエイティブだと思っていません。自らがクリエイティブだと考えている比率もダントツの最下位。アメリカ人は52%が自分をクリエイティブと思っているのに、日本人は19%。
ずっとそうなんです。日本語37%レポートのそのまた5年前にも衝撃レポートがありました。ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏が2002年、フォーリン・ポリシー誌に「Japan’s Gross National Cool」を掲載、日本のポップカルチャーを高く持ち上げました。いわゆる「クールジャパン」の嚆矢となったレポートです。当時ぼくらも盛んにこうした自己評価を発信していましたが、海外からの1レポートによる評価のほうが浸透力が高かった。ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授がソフトパワー論で後付けしたのも効きました。
だからこれを自らのエネルギーに転化するのにてこずっています。ポップカルチャーのパワーを発揮する自家発電力がなかなか湧いてこない。今回の調査でも、自分の持ち物を正当に評価できないさまが見て取れます。
それ以上にマズいのは、「創造力が経済成長のカギになると答えたのも日本が最下位」という結果です。そうなの? じゃみんなは何で食って行こうと思ってるの? 資源も、低廉な労働力もないんですぜ。資源はアラブやロシアや中国で、労働力は中国やインドで、じゃあぼくらはどうしますか。知恵しかないんじゃないですかね。資源を取りに行って敗戦、労働でいったん天下取ったが追いつかれ、残りはクリエイティブしかないでしょう。
アメリカは80年代、クルマや家電のクリエイティビティで日本に負けたけど、90年代以降、ITのクリエイティビティで巻き返しました。日本はどのクリエイティビティを発揮していきますか。
Let’s Create Creativity.
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2012年8月9日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。