「ドラゴンクエストX(ドラクエ10)」(スクウェア・エニックス、Wii)が、ギャンブル性を抱えている問題を先週(8月29日)に日経新聞「ゲーム読解」で書かせて頂き、良くも悪くも大きな反響を頂きました。株式相場が記事を掲載した水曜日の翌日になって材料視され反応したことには、完全に私にとっても予想外のことでした。5月のコンプガチャ問題発生以来、この問題に対して株式市場が行政の突然の介入に対して、極めて敏感に反応しやすい状況が起きていることを理解しました。それほど、「コンプガチャショック」と呼ばれた5月5日の週明けのディ・エヌ・エー、グリーの関連株の急落が強い印象を残しているため、過剰に反応したのでしょう。
この点を私なりに、頂いたご意見などを受けて、私的に整理しておきます。
ドラクエ10には本当に賭博性はないのか?
「ドラクエ10」自体は、雑誌で失敗したという特集の予定が組まれたりしているようです。ただ、私自身はMMORPGという難しい分野で、かつWiiでコアゲームをはヒットしないと言われるというハンデを抱えながら、販売は50万本を越え、かつ20日以降の無料期間を過ぎた後の減少が懸念されていましたが、それを乗り越えているように見えます。これは、当初のもくろみ通り、スクエニにとって安定収益をもたらす存在へと変わりつつあるのだろうとみています。スタッフの人はまったく家に戻れない過酷な状態が続いていると思えますが、現場での大変な戦いを繰り広げていると想像しています。
それで、ドラクエ10の賭博性の問題で、私の書いた記事に対して、木曽崇さん(国際カジノ研究所所長)と、やまもといちろうさんが、私が書いたことを受ける形で、論点をうまく整理をしてくださっているます。
ドラクエ:ダイス賭博に本当にリスクは無いのか? — 木曽 崇
スクエニに全くリスクが無くなったのかと言われれば、実はそうではありませんで、プレイヤー間で行なわれている賭博行為をシステム的に幇助したという「幇助罪」が成立する可能性はゼロとはいえないというのが現状です。ただし、その前提としてプレイヤーに賭博罪、もしくは賭博開帳図利罪が成立する必要があります。
ゲーム内で提供されているデータとしてのバーチャル通貨(別にデジタルアイテムでも良いですが)が「財物・財産上の利益」にあたれば、プレイヤー間のバーチャル賭博は賭博罪となりうる。この辺りの判断となると、私としても確定した答えを今のところ出せていないという非常に微妙な世界となってきます。
新清士さんがドラクエ10のダイス機能を賭博開帳とやらかした件で余波
違法カジノ(ダイス屋)と分かっててトランプ(ダイス機能)を提供したら、法に問われると、そういうことです。
付け加えるならば、今回の消費者庁のガイドラインにおいては、経済上の利益は換金性の有無に関わらず、景品表示法上は事業者によって役務として提供していると解釈されます。一連のソーシャルゲーム業界の騒動によって、従来からオンラインゲームにおいて当たり前のように提供されてきた機能や仕様においても、内容によっては経済上の利益を与えるものとして規定されるようになった、という点で、業界環境は大きく変化しました。
過去のMMORPGにも同様の機能が付いているじゃないか、ドラクエ10だけ論点に上げるのはおかしい、という指摘を頂きますが、これが6月28日のコンプガチャ問題に対する消費者庁見解で大きく変わりました。消費者庁が踏み込んだ「内容によっては経済上の利益を与えるものとして規定された」ことが決定的に大きいのです。従来からオンラインゲームにおいて当たり前のように提供されてきた機能や仕様においても、内容によっては経済上の利益を与えるものとして、行政は見なすことが可能になったのです。
つまり、ドラクエ10以前のMMORPGにおいても同じように、同じような確率を利用した賭場行為が意図的に行われた場合には、行政が介入する余地が生まれたということです。そのため、現在と、過去とは状況が大きく変わったのです。
現状では、スクエニ自身が意図的に賭場を作っているわけではないので、賭博開帳図利罪に問われる可能性はないと、私自身も認識していますが、細かく見ればRMT行為を賭博を意図して活動をしているユーザーを意識的に放置していると見なされた場合には、幇助の可能性は残っていると理解しています。ただ、スクエニは、すでにこの点について、すでに法的な問題点は、検討済みであるのだろうと、私自身はプレスリリースで理解をしましした。
8月30日の「ドラゴンクエストX」に関する一部報道について
お客様同士のアイテム等の交換行為は、当社が主体的に実施しているものではなく、かつ、外部ウェブサイトでのアイテム等の売買は利用規約において禁止しております。したがいまして、当社が賭博罪・賭博開帳罪に問われる可能性はないと認識しています。
さらに、ユーザーに対しても以下の告知がサポートからリリースされました。
ドラゴンクエストXスタッフのお知らせ:「ダイス機能」に関するご案内
プレイヤーの皆様におかれましては、これらの迷惑行為を回避するためにも、アイテムやゴールドの交換は、信用のおける相手と行われることをおすすめいたします。
なお、「ダイス機能」を利用したアイテムやゴールドの交換に関して、常識的なやり取りであればゲームシステムを利用したゲームプレイのひとつと考えております。
ここでいう「信用できる相手」が誰を示しているのかが重要で、非常に慎重に言葉を選んでリリースを出していると私自身は理解しています。それでは「信用できない相手」とはだれでしょう?
問題の本丸は「仮想通貨」をどのように位置づけるのか
RMTは日本では法的に取り締まることができないので、各ゲーム会社は、RMT業者との争いになります。業者については、組織的に動いていることが多くなってきてることが指摘されています。それが、裏社会とつながっている可能性が指摘され始めており、あまり良い話を聞かないのは事実です。すでにこれだけスクエニもRMTを禁止を強く打ち出しているにもかかわらず、相変わらず、それらを停止しない業者がいるのは確信犯であるためです。これは、他のMMORPGやソーシャルゲーム各社でも同様の話です。
現状、警察といった公的機関が現状即動くとは考えにくいと考えていますが、ゲームが大ヒットして市場が急激に成長しているときにはRMT市場も活性化することも多いです。そのために社会的な注目度を浴びやすいのです。RMT業者が、意図的にゲーム内カジノを展開し、換金可能な状態であることが継続し、その金額が大きくなり、そのつながりが証明できるならば、そこには行政が介入するリスクは少なからずあります。彼らは、意図を持って賭博を事実としてやっている可能性が大きいためです。他のゲームで制度的にこれまで同じような機能があっただろうということは関係ありません。他のゲームでも起こりうることです。
ゲームのオンライン化によって広がる課題点
また、掲示板等では、カジノ機能が一般的に見られることは子どもにとっては不健全なのではないかという保護者の指摘も行われている事はご存じの方も多いでしょう。「ドラクエ10」は、オンラインゲーム部分は現状のレーティングシステムの対象にはなっていません。家庭用ゲーム機については「CERO」というレーティング機関がありますが、オンライン機能についてはレーティングを判断できないという課題を抱えており、現状レーティングの対象になっていません(アメリカ、欧州のレーティング機関も同様です)。これらの課題も、出会い系問題に発展しかねないリスクがあります。ただ、スクエニの運営チームは、この問題をすでに認識しており、非常に注意を払っているのではないかと思います。
さらに、業界として、RMTの問題に対しては、「CESA」、「日本オンラインゲーム協会(JOGA)」、また、ソーシャルゲームのプラットフォーム6社が10月に立ち上げを用意している「6社協議会」と、スタンダードがいくつもできつつあることも、私自身は懸念材料として感じています。ゲーム業界としての統一ルールがない状態に向かっています。RMT問題は、過去のようにパソコンゲームを中心としたMMORPGだけではなく、「仮想通貨」の広がりと共に、多様な問題へと広がりつつあるのです。この社会的に様々なところに広がりつつある「仮想通貨」の取り扱いをどのように位置づけるのかということこそが、この問題の最大のポイントです。この問題は、今後もセンシティブな状態が継続すると、私自身は見ています。
ただし、現状は大半のゲーム会社は、「RMTを規制する法律」の成立を望んでいません。自主規制によって乗り越えることを前提に動いています。そのため、RMTが一般化するほど、それを押さえ込めているのかどうかが問われることになるのです。
現状は、スクエニは、過去の「ファイナルファンタジー11」等で積み上げてきたRMT業者との戦いのノウハウを使って、RMT問題を「ドラクエ10」でも封じ込めることを私も強く期待するものではありますが、問題はさらに将来的に広がる火種が存在していることは指摘しておきたいと思います。ヤフオクでは、RMT業者から、仮想通貨のゴールドを購入している人が散見されますが、繰り返しますが、こうした業者との付き合いは、ゲームを遊んでいるユーザーの方には、決して利用しないように申し上げておきたいと思います。
新清士 ジャーナリスト(ゲーム・IT) @kiyoshi_shin
めるまがアゴラにて「ゲーム産業の興亡」や、日本経済新聞電子版「ゲーム読解」、ビジネスファミ通ブログ「人と機械の夢見る力」を連載中