小林よしのりの『脱原発論』

2012年09月15日 11:43

ゴーマニズム宣言SPECIAL 脱原発論私も出ていると教えてもらったので立ち読みしてみたが、243ページに1コマだけ出てくる。反原発派は科学的には壊滅状態で、討論会に出てくるのも共産党とか社民党しかいなくなったが、本書のような大衆レベルではまだ根強く放射能への恐怖があるようだ。政治家が迎合するのはそういう人々なので、彼らを説得しないと事態は打開できない(もちろん画像にリンクは張ってない)。

派手なマンガで飾っているが、中核的な主張は単純だ。要するに「低線量被曝の影響はわからないのだから最悪の場合を想定して原発はゼロにせよ」ということだが、この主張は(今までも書いたように)二重に誤っている。


まず、低線量被曝の影響はよくわかっている。100mSv以下のリスクは統計的に有意な影響が出ないほど小さいということで、世界の研究は一致しているのだ。この場合、瞬時(acute)被曝と持続的(protracted)被曝の区別が重要である。前者の疫学調査としてもっとも信頼できるのは放影研の第14報だが、このデータではリスクは今までより大きく、100mSvで5%以下となっている。これは受動喫煙や野菜不足とほぼ同じだ。

しかし原爆のように大量の放射線を日常生活で浴びることはない。微量の放射線を長期にわたって浴びた場合の持続的被曝の影響については、先日の記事でも紹介したように、ほぼ一致して低線量被曝で発癌率は下がるという結果が出ている。本書はそれを「安全デマだ」と糾弾するのだが、それを反証するデータを示しているわけではない。

そこでよしりんは「リスクのわからないものは最悪の場合を想定して禁止しろ」と逃げるのだが、リスクとは定義によってわからないものだ。たとえば、彼がきょう車にひかれて死ぬかどうかはわからない。日本では平均すると交通事故で1日13人が死ぬから、彼が死ぬ確率は1/1000万ぐらいだが、ゼロではない。そのリスクをゼロにするには、自動車を禁止するしかない。

「最悪の場合を想定してリスクをゼロにしろ」というなら、よしりんはなぜ自動車を禁止せよといわないのだろうか。毎年5000人も死ぬリスクは、原発よりはるかに大きい。「自動車は便利だから」というかもしれないが、金より命なのだから、利便性や経済性を考えてはいけないはずだ。――これが私の彼への質問である。彼は私のブログも読んでいるようだから、ぜひ次のマンガで答えてほしい。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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