小幡さんの記事は何が間違っているのかよくわからないが、せっかくだから反論しておこう。
標準的なマクロ経済学で考えると、彼のいうようにアベノミクスは間違っている。ゼロ金利でいくらマネタリーベースを拡大しても物価が上がらないことは、ここ10年の日本の経験でも、ここ5年の欧米の経験でも明らかだ。補正予算で金をばらまくケインズ政策で一時的に物価は上がるが、継続的なインフレは起こらない。
しかし一つだけ、インフレを起こす手段がある。通貨の信認を毀損することだ。「政府は円の価値を下げるためには手段を選ばない」と市場が受け止めると、円は下がり、外貨や実物資産に資金が逃避する。それが今、起こっていることだ。ここ1ヶ月で円の価値が1割近く急落したことで、アベノミクスはすでに成功したのだ。
問題はここから先、何が起こるかである。竹中平蔵氏は、「期待は自己実現する」という。
「この国は必ず成長できる」という期待をみんなが持っていれば、それに合わせて消費や投資が増えていく。住宅投資も活発になる。そうして、自己実現的に経済成長が達成されるというわけだ。
これは本当だろうか。たとえば自民党の公約しているように「日本が3%成長する」と信じて大企業が設備投資を大幅に増やしたら、下請けの景気もよくなり、所得も増えるだろう。そういう期待で株価も地価も上がるかもしれない。しかし最終的に人々の消費が3%増えなければ、こうした投資は過剰になり、企業は破綻し、借金だけが残る。これがバブルである。
つまり期待が自己実現する場合もあるが、それがバブルに終わる場合もあるのだ。どっちになるかは事前にはわからないが、その分かれ道は実体経済が改善するのかという点だ。
通貨の信認を毀損すると起こるのは、将来に対する投資ではなく資本逃避である。日本に投資されていた資金が欧米や中国などに流出し、生産に使われていた資金が投機に向かう。その結果、起こるのはフローの物価上昇ではなく、1980年代のような資産インフレである。それがまさに麻生財務相のねらいだ。
だから小幡さんは間違っている。アベノミクス(正確にはアソウノミクス)は成功したのだ。しかしその結果おこるのは、安倍氏の望んでいるような経済の活性化ではなく、80年代のような経済のカジノ化である。その結果どうなるかは誰もが知っているはずだが、政治家の記憶は短いようだ。どうせ痛い目にあうまでわからないのだから、せいぜい派手に実験をやってほしい。
追記:テクニカルな問題をブログで補足した。