基盤整備と海外展開の二本柱で「知財本部2013」が始まった --- 中村 伊知哉

2013年01月20日 07:00

知財本部コンテンツ専門調査会の2013年審議がスタートしました。
ぼくが会長に就いて4年目の知財計画作りとなります。

前回の会議で、政府の態度を示すためにも、この会議には大臣に出席してもらいたいという指摘が別所哲也さんからありました。昨日の会合では、山本大臣、島尻政務官が揃って出席。政権は改まりましたが、知財本部が発足したのは10年前の自民党政権ですから、この分野を強化する方針は不変、といいますか、一層力を入れてくれることを期待します。


ただし、知財本部では10年にわたる検討が進められてきました。知恵は出尽くしているくらい出ています。画期的な新機軸はなかなか期待しづらい。各種政策にどう優先順位をつけ、どう踏み込むかの決断が重要な段階です。実行、です。その点、コンテンツ政策では韓国がよく例に出されるんですが、日本との違いは、政治を含む「気合い」です。これを求めたい。

重点を置くべきと思うことは3点あります。

1. 海外展開の強化。海外のメディア枠を買う、輸入規制を撤廃してもらう、そうした思い切った手が必要です。
 今回、補正予算でコンテンツ海外展開に170億円が計上されました。のっけから、政府のやる気が見えます。

2. 国内は基盤整備。長期的な底上げを図ること。子ども全員にデジタル教科書を使わせる、政府や自治体の持つ情報を著作権フリーで開放させる、といったこれも思い切った手が必要でしょう。

3. 政府の一体化。多くの官庁が一つのテーブルについて、前向きに取り組んでくれるようになりました。これをグイと進めて、ITとコンテンツ、ハードとソフトが一体となった政策や、多くの官庁を横串にした政策が重要です。これも政治主導で行ってもらう必要があります。

プランを立てること以上に、実行と成果が求められます。政治には強力に引っ張ってもらいたい。

昨日、山本大臣は「安倍総理に “文化総理宣言”をしてもらいたい」と話していました。そうです。フランスのコンテンツ政策は大統領が自らアナウンスすることが多い。文化国家たるもの、国の代表にその意識を持っていただきたい。

昨日の会議で、本年の検討をデジタル・ネットワーク化(基盤整備)とクールジャパン(海外展開)の2本柱で進めることが了承されました。議論の冒頭、ぼくから「状況認識」の私見を話しましたので、記しておきます。

1 デジタル化・ネットワーク化
デジタル化、ネットワーク化が本格化して20年。新しいビジネスチャンスが広がっている。
特にこの10年間で、コンテンツが注目を集め、著作権法を改正してデジタル化に対応するなどの政策が採られてきた。
しかし、コンテンツの利用や情報の生産は爆発的に増大する一方、コンテンツ産業は拡大するどころか縮小傾向にある。
さらに、この数年、マルチスクリーン、クラウドネットワーク、ソーシャルサービスといったメディアの刷新が起こっていて、デジタルやネットワークは新しい段階に入った。
その中で、日本のコンテンツ産業はプラットフォームのグローバル競争にも勝利できていない。
また、教育、行政といった分野でのコンテンツの生産と利用も遅れている。
こういう状況の中、もちろん権利の保護は重要な課題であるが、世界的なデジタル化・ネットワーク化に対応して新しい産業と文化の発展を続けるためには、権利者と利用者の利害対立、ハードとソフトの対立といった構造を超えた、総合的な制度設計や新分野の創造が必要。
コンテンツを我が国の経済と文化の原動力として推進するための戦略を実行すること。その政策のプライオリティを高めていくことが重要。

2 クールジャパン
クールジャパンという言葉が使われるようになってこれも10年になる。
日本の現代文化は、クールジャパンとして世界の共感を得ている。
その共感は、マンガ、アニメ、ゲームといったコンテンツにとどまらず、ファッション、食、伝統工芸、観光などに広がっている。
さらに、工業デザイン、サービス水準、家族経営、生活様式、といった経済・文化全般に注目が集まっている。
こうしたソフトパワーを経済成長につなげるために、海外市場を取り込むことがわれわれのミッションだ。
手法としては、メディアやイベントでの情報発信を強化するというアウトバウンドが第一。さらに、人も技術も取り込んで、日本を本場に、産業文化の増殖炉にするというインバウンドがもう一つ。
コンテンツやファッションなどの競争力ある産業分野を横断する施策に政府も民間も力を入れるようになったが、本格的な成果が上がるのはこれから。
重要なのは、クールジャパンの力をきちんと認識すること。
2つあると考える。一つは総合力。文化の力、コンテンツやデザインを産み出す力と、技術の力、高品質な製品やサービスを作るものづくりの力、この文化力と技術力の双方を持ち合わせる総合力が、古来から培ってきた日本の強み。
もう一つは、国民の、庶民の、みんなの力。日本のポップカルチャーは限られた天才というより、みんなが庶民文化として育んできたものであり、いわばソーシャル力。ネットワークでみんながつながる時代は大いなるチャンス。
しかし問題は、その力を日本人が認識していないこと。
ある米企業の国際調査では、世界で最もクリエイティブな国は日本だという評価が圧倒的第一位だったのに対して、日本人だけが日本のことをクリエイティブだと思っていないという結果。
クールジャパンという言葉も海外から入ってきたものであり、日本が自らを評価したものではない。
自ら点検し、評価しつつ、外に出て行くことが重要。

さて、これらを受けて、いつものようにさまざまな意見が出されました。政府データ・情報を著作権フリーにする主張や、孤児著作物の利用促進策などが提案され、スタートから取りまとめの大変さを予測させます。それ以上に、「コンテンツ」の概念を改めよという指摘が相次ぎ、環境の変化を認識させました。主な論調は2つ。

1. パッケージからの脱却
これまでパッケージ・コンテンツを中心に施策が組み立てられてきたが、もはやユーザ経験がより重視されている状況であり、コンテンツという言葉自体も見直すべき。ソーシャルゲームのようなダイナミックなコンテンツが重きをなしている。アプリを念頭に施策を考えるべき。といった、クラウドでソーシャルの情報環境を軸に据えた組み立てが必要という指摘です。

2. エンタメからの脱却
ユーザジェネレイテッド・コンテンツの広がりを戦略として捉えるべき。オープンデータ、ビッグデータをコンテンツ政策の観点で考えるべき。教育情報化をコンテンツ政策として推進すべき。これまで議論の中心をなしてきたエンタテイメント産業からスコープを広げよ、というものです。これはぼくがこの10年ほど言い続けてきたことですが、やっと多くの口から立ち上るようになりました。
これから大変な季節となりますが、みなさんのご指摘・ご批判をいただきながら、進めてまいります。よろしくどうぞ。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年1月18日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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