「国会版社会保障制度改革国民会議」中間報告を改革の起爆剤に

2013年04月26日 12:26

少子高齢化が急速に進む中、いまや日本の政府債務(対GDP)は200%にも達する。この主な原因は、恒常化する財政赤字と、毎年1兆超のスピードで膨張している社会保障費であることは言うまでもない。前回のコラムでも説明したように、消費増税5%の延命効果は約4年しかない可能性が高い。このため、財政改革は急務であるが、そのコアは「社会保障の抜本改革」のはずである。しかしながら、政府に設置された「社会保障制度改革国民会議」の足取りは重いためか、若干の報道はあるものの、その方向性に関するメディアの注目は低い。


このような状況の中、中谷元議員(自民)・河野太郎議員(自民)・木原誠二議員(自民)・ 上田勇議員(公明)・大串博志議員(民主)・柚木道義議員 (民主)・浅尾慶一郎議員(みんな)らを中心として、衆参両議員のほか、多くの国民を巻き込む形で、超党派の「国会版社会保障国民会議」が立ち上がり、今年2月から計8回の会議を行い、先般、以下の中間報告が公表された(僭越ながら私も第1回の会議などに参加)。

この中間報告は最近、上記の有志らによって現政権の菅官房長官と西村内閣府副大臣に提出され、政府の手に渡っている。社会保障の抜本改革に向けて、改革の原則や改革推進のためのプログラム法・工程表の必要性も含め、かなり重要な事項が盛り込まれている内容であり、超党派の有志が中心に取りまとめた同中間報告が、中長期的な社会保障制度のあり方に関する議論に一石を投じ、改革の起爆剤になることを期待したい。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)

2013年4月24日
国会版社会保障制度改革国民会議における中間論点整理について
国会版社会保障制度改革国民会議

1.はじめに
国会版社会保障制度改革国民会議は、政府に設置された社会保障制度改革国民会議における議論が主に消費税引き上げに伴う財源の適切な使いみちに関するものになっていることに鑑み、より中長期的・全体的な視点から、我が国の社会保障や財政のあり方等について検討するため、党派を超えた多くの議員の参加を得て創設されたものである。
当会議は、社会保障制度改革は国民の暮らしに直結することはもちろん、我が国財政への影響も甚大であり、党派の主義主張や政治的対立を超え、将来世代にも責任をもった形で合意を図っていかねばならない、との考えのもと議論を進めてきた。

2.改革の三原則
これまでの議論を踏まえ、社会保障制度改革を進める上では、以下の原則に沿うことが不可欠であると考えている。
①国民がガバナンスできる、わかりやすく簡素な制度に
現行制度は、度重なる制度改定による条件の細分化等の結果、詳細化・複雑化を極めており、受益者であり負担者でもある国民が理解しがたいものに変容してきている。国会においても、報酬改定における改定率や個別項目の反映には関心を払うものの、複雑化した社会保障制度の全体像を解明することは容易にはできなくなっている。
国民にとって安心の拠り所であり、負担も求められる制度だからこそ、負担と給付の関係を可視化できる、わかりやすく簡素な制度であることが求められる。加えて、国民が十分に理解・納得の上で判断しうるよう、情報の公開、共有も進めなければならない。
②将来世代にも責任を果たせる持続可能な制度に
今般、消費税引き上げに向け三党の合意を見たが、主として高齢者向け社会保障分野に関する当面の財源が手当てできたにすぎない。我が国の財政の現状や少子高齢化の進展等を踏まえれば、年金、医療、介護ばかりでなく、若年者雇用や子育て支援を含む社会保障制度全体の持続可能性を中長期で見込めなければならない。
そのためには、a)税・保険料収入の安定的確保、b)野放図な歳出拡大の抑制、真に必要とされる分野への絞込みによる歳出の適切な管理、が不可欠である。
いまこそ、国民の理解を得て、負担の先送りの連鎖を断ち切らねばならない。その際、国民は、単に金銭的負担を負うばかりではなく、自らがその当事者として社会保障制度に積極的に関与するものでなければならない。
③国民(受益者であり負担者)サイドからの改革が不可欠
これまでの社会保障制度改革の議論は、制度毎の縦割りの個別論にかたより、全体論として検討されることは少なかった。確かに年金と生活保護、医療と介護、年金と医療等、各々の制度は独立しているが、受益者である国民からすれば、一体として考えるべきものである。実際、制度間の整合性、狭間の問題も生じている。
更に、年金や医療における制度間及び制度内の負担格差問題も深刻となっており、その是正への本格的な着手が求められる。国民から見れば、税であれ、社会保険料であれ、負担は負担であり、今後は一体的な議論が不可欠である。

3.年金制度について
(1)年金財政の持続可能性確保

年金制度において喫緊の課題は、少子高齢化が進むもとでの、年金財政の持続可能性確保である。これは、いかなる制度体系を選択しようとも、避けて通ることができない課題であり、言い換えれば、800兆円規模とされる暗黙の年金債務を、明確に認識したうえで、どのように処理していくかという大きな課題である。そのために、以下に取り組むべきである。
①第2回財政検証の保守的前提での前倒し実施
年金財政の持続可能性確保の議論の基礎となるのが、財政検証であり、2014年に予定されている第2回財政検証は、極力前倒しで実施されるべきである。
また、そこで用いられる経済前提は、実現値が前提を下回った場合、財政負担を負うのは将来世代となることを考えれば、政府の中期財政プログラムとは明確に一線を画し、保守的に置かれなければならない。
更に、今後の財政検証においては、中期的には、例えば米国における社会保険会計のように、まず、会計基準を定め、その基準に則って、政府が推計作業を行うことを検討すべきである。加えて、政府の推計結果の信頼性を評価する監査組織を国会に置くことが望まれる。
②マクロ経済スライド発動をはじめ負担と給付の見直し
財政検証結果を踏まえ、年金法では求められていないものの、将来世代への負担ツケ送りをこれ以上拡大しないよう、マクロ経済スライド発動をはじめとし、負担と給付の見直しに取り組み、2014年に必要な法制上の措置をとる必要がある。その際、マクロ経済スライド発動による高齢者の貧困率上昇も懸念されるため、最低保障が期待される基礎年金については、別途、財源の手当てを予め想定しておくと共に、これを踏まえ、制度体系のあり方を充分に議論しておくことが求められる。
(2)年金制度体系の在り方
①現行制度を所与とせず制度体系の議論を推進

現行制度は、厚生、共済、国民各年金制度に基礎年金を接ぎ木するかのような形になっており、複雑かつ分かりにくいものとなっている。加えて、マクロ経済スライドが発動されれば、基礎年金も対象となることから、その給付水準は、「基礎」の名に国民が寄せる期待から一段と乖離していくこととなる。
そこで、年金制度に本来期待される諸機能、すなわち、a)従前所得保障機能、b)最低保障機能、c)強制貯蓄機能などの面から、改めて基礎年金と報酬比例年金がそれらに応えるものとなっているか否か点検し、現行制度を所与とすることなく、年金制度体系見直しの議論が積極的に進められなければならない。
なお、そうした見直しの際、基礎年金と生活保護、公的な報酬比例部分と私的年金は、その機能が近接することから、一体的に俎上に載せられることが必要である。
②被用者年金一元化の一段の推進
今回の社会保障・税一体改革において、厚生年金と共済年金の一元化は進展をみたものの、なお、積立金が従前どおり、各事務組織によって個別に運用されるなど、完全な一元化とは言い難い。今回の一元化法にとどまらず、一段の一元化を推進すべきである。

4.医療制度、介護制度について
(1)短期的改革
○先ずは、70~74歳の保険料負担を現行法に定める本来水準に戻すこと

社会保障・税一体改革大綱(平成24年2月17日閣議決定)において、70 歳以上75 歳未満の方の患者負担について世代間の公平を図る観点から、見直しを検討するとされたにも関わらず、段階的引き上げにも着手できなかったところである。
これは、将来世代にツケを先送りする判断であり、早急に法の定める水準への是正が不可欠である。尚、本是正に際しては、医療のみならず年金等も含め、高齢者の生活保障のあり方を全体として改めて検討する必要がある。
(2)中期的改革
①地域に根ざし安心して医療・介護を受けられる地域包括ケア体制の確立を

患者、その家族の視点から考えた場合、医療・介護等は一体として受けられるよう、地域包括ケア体制の確立が必要である。
その前提として、a)地域における医療、介護等事業者のネットワーク化、b)患者の立場に立ち、地域の医療・介護を守る主体(市民も含めたNPO等)、c)財源面では、地域に必要なケア体制を確立するため、その原資となる管理料(定額、従来の出来高制ではなく、地域において包括ケアを担う責任に対する報酬)等が必要とされる。なお、患者の視点から考えた地域包括ケア制度を支える担い手として、地域に密着し、医療・介護の最初の入り口機能を担う総合診療医の確立が不可欠である。
併せて、地域において疾病管理をより進める観点から、総合診療医はもちろんのこと当該分野に知見を持つ看護師等(疾病管理看護師、保健師等)の積極的活用を進める必要がある。
②全国民へのライト(適切な)アクセスの保障
フリーアクセスに加えて更にライトなアクセスを保証する。フリーアクセスは、患者が自由に医療機関を選択できるものの、その一方で、患者やその家族にとっては、適切な医療機関を選ぶことは容易なことではなく、不安を抱えつつ、口コミ、マスコミ情報に頼り、医療機関探しに苦労するというのが実態である。
「運よくいいお医者さんに巡り会えた」という人とそうではない人とがいてはならず、全ての国民が適切な医療にアクセスできなければならない。
それが、われわれが目指す、ライト(適切な)アクセスの全国民への保障であり、そのために、上記の総合診療医の充実を図る必要がある。
③地域に根ざした予防・先制医療の充実
上述の地域における包括ケアにおいては、予防・先制医療の視点を重視しつつ、予防・健康増進、健診・検診の充実を通じた生活習慣病対策、慢性疾患対策を図っていく必要がある。その際、予防・先制医療についても、診療報酬体系の中で適切な評価・支払がなされるよう、取り組んでいく必要がある。
なお、その前提として、各地域における疾病構造の把握及び分析結果の共有が必要である。その際、国保のみならず協会けんぽや組合健保も含め、保険者横断的であることが望まれる。
④出来高制に基づく報酬体系の抜本見直し
現状の出来高制を主とする報酬体系は、医療や介護提供者等のサービス増大や設備投資へのインセンティブを与え、地域全体や国全体で見た場合、過剰な投資が行われる結果となっており、財政的な視点を離れても抜本見直しが不可欠である。
その際、診療・介護行為を全国一律に誘導するのではなく、各地域でそれぞれに工夫して質の向上と費用の節約を両立できるよう、報酬体系の決定プロセスを地域に委ねていく方向を目指すべきである。
新薬の保険適用等についても、医療財政への影響も想定しながら、基礎的な医療と先進的なものとのすみ分けを進めることも必要と思われる。
⑤医療計画、介護計画等のずれの修正
現在、医療計画は都道府県、介護計画は市町村でそれぞれ策定され、改定時期も一致しておらず、医療・介護等の一体的運用の障害となっている。同様に高齢者住宅計画の作成は都道府県、地域保健福祉計画の策定は市町村とバラバラの状態である。今後、広域、基礎自治体、各々の特性を活かしながら、それぞれが連携して、地域の課題に向き合い、計画を策定し、地域での実践を進める運用が求められる。
⑥保険者機能の再編、見直し
医療保険者は、組合健保、協会けんぽ、共済、国保、後期高齢者医療制度など多種で多数存在している。しかも、国保の保険者である市町村は大小様々で負担水準の市町村格差も著しい。
また、国保は、自営業者と農林漁業者のための制度という当初の性格から、非正規雇用者と年金受給者の制度に変質してきており、現役世代にとっての保険料負担は重く、保険料滞納も深刻となっている。従来の地域単位と職域単位に分けた連帯のあり方を根本から見直し、保険者の再編を地域単位化、その上での広域化をベースに進めていくべきである。
また、保険者再編に併せて、国、広域自治体、基礎自治体、企業、そして国民自身の責任のあり方、その関係がいかにあるべきか、根本の議論を改めてしておくことも求められる。
(3)保険財政の持続可能性確保・歳出の圧縮・コントロール等
上記保険者再編にかかわらず、健康保険・介護保険に関しても、長期財政推計を実施する必要がある。その際、後期高齢者支援金、前期高齢者納付金について明示した上で、引き続き各保険者が負担していけるのかどうかも含め検証し、財政的持続可能性を一段と高める改革が必要である。

5.若い世代の就労・子育て支援
(1)社会保険料負担の抑制

社会保険料負担の抑制は、即効性の期待出来る若年世代の支援策である。社会保険料は、いまや50兆円超に達するわが国最大の「租税」であり、その課税ベースは、主に現役世代の賃金となっている。家計にとっては、所得税よりも対象世帯がより広く、単一料率であることから、低所得層にはとりわけ重い負担となっている。企業にとっても、赤字でも負担が発生し、雇用コストの押上げ要因ともなっている。
社会保険料には、自助の精神を内包するなどのメリットがあるものの、若い世代及び企業活動にとってのデメリットはもはや無視できず、社会保障給付の効率化を通じて負担抑制を図るとともに、社会保険料の累進化及び税体系を含めた社会保障財源の最適化を目指す議論が不可欠である。
(2)勤労税額控除(給付付き)導入に向けた環境整備
賃金の底上げ策として最低賃金制度があるものの、企業にとっては雇用コスト押上げ要因となり、逆に労働需要を抑制するなどデメリットも指摘されている。そこで、最低賃金に米国のEITC(Earned Income Tax Credit)のような勤労税額控除(給付付き)を組み合わせることにより、企業の雇用コストを押し上げることなく、自助努力を促すトランポリン型社会保障制度として、実質的な賃金の底上げを図ることを検討すべきである。
なお、税額控除制度導入には、a)国と地方横断的、省庁横断的な制度設計の議論、b)より正確な所得捕捉をはじめ制度を支える行政インフラ整備が不可欠である。このため、金融資産をも対象とするマイナンバー制度の着実な実現など、政治の責任のもと推進していかなければならない。
税額控除制度が定着すれば、人的資本向上への寄与が期待される教育税額控除など、利用範囲拡大を進める。
(3)民間資源活用による一段の子育て支援
国の統計上の待機児童にとどまらず、100万人規模ともされる潜在的待機児童解消をめざした保育所整備が求められる。その際、公費負担には限りもあり、かつ、スピードも求められることから、極力既にある民間の資源が活かされるべきである。

6.その他
政府・与野党は、社会保障制度改革推進法等、三党合意の結果を踏まえつつ、2013年度中に、上記3.から5.の取り組みを推進するための「プログラム法」の制定や「改革工程表」の作成を行い、2015年度までにさらに必要な法制上の措置を講ずるものとする。

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