国産チーズの原料は輸入チーズ

前田 陽次郎

チーズの関税が高い、ということに対する間違った認識が広がっているようなので、少し説明したい。

その上で、貿易自由化をにらんだ日本の乳業メーカーの輸出戦略についても考えたい。


チーズの関税が高い、という話の元になったのは、以下の記事である。

日本のチーズがまずい理由が悲しすぎる

今、このリンク先を見て頂くと、元記事が間違いだったことがよくわかるだろう。「輸入チーズには800%の関税がかけられている」、なんてことが書いてあったのだが、完全に削除されていて、原形を留めていない。

「輸入チーズ関税800%」は本当か

こういうまとめもできている。

元記事が修正されたといっても、今でも「日本はチーズに対する関税が高いから、外国産のチーズが高い。」と思っている人は多いだろう。今回の件は、一度ネットで広まった嘘は、簡単に修正できない、という、いい事例になった。

それはさておき、タイトルに関する話。

国産チーズの原料の大部分は、実は輸入チーズなのである。スーパーに並んでいる国産チーズのパッケージの裏を、一度見て頂きたい。かなりの商品に、原料として「ナチュラルチーズ」と書いてある。商品名に「十勝」と書いてあるものでも、原料としてナチュラルチーズが書いてあるものもある。そして、そのナチュラルチーズのほとんどは、輸入品なのだ。

製品としてのチーズは、現在でも自由化されていて、30%の関税を払うと、誰でも輸入することができる。30%でも高いという人もいるかもしれないが、為替レートの変動を考えると、決して高いとはいえない。つい先日までの円高ででも、30%分の関税分位は帳消しにできたのだから。

次に、原料としてのチーズの輸入については、今でも制限がかけられている。このことをどう理解するかだが、原料輸入に制限がかかり、製品輸入は自由化されているとなると、一般的には、日本のメーカーにとっては不利な状況である、と考えられないだろうか。

では、原料輸入も自由化されるとどうなるか。日本で原料用チーズをどんどん輸入して、日本のブランドを付けて、海外でどんどん売ることが可能になるのである。

前述した通り、今でも日本国内で輸入チーズを原料とした十勝ブランドのチーズが売られている。同じことで、輸入チーズを原料とし北海道ブランドを付けたチーズを、アジアの国に輸出すればいいのだ。

北海道ブランドは、アジアの国において確立してきている。例えば香港の街中を歩くと、あちこちで「北海道」という文字を目にする。それを活かして積極的なビジネスを展開できる可能性が開けてくるのだ。

TPPを契機にして、地方企業が海外を視野に入れた戦略を立てることは十分可能なのだ。食品産業は1つの可能性を示している。いくらTPPに反対した所で参加する方向にあるのは間違いないのだから、反対運動をする労力を、新しい産業を発展させることに向けた方が、より生産的であろう。

蛇足であるが、農村部における食品産業の発展可能性については、私の著書で触れているので、ご興味があるという奇特な方がいらっしゃれば、参照頂ければ幸いである。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師