トルコの原発受注からみる日本農業のチャンス --- 岡本 裕明

アゴラ

トルコで日本とフランス連合が原発の受注をほぼ手中にしました。これは逆転に次ぐ逆転で誰も予想しない形での決着になったと思います。


もともとは韓国勢が有利、その後、東芝-東電連合が巻き返し、ほぼ確定したところで震災。その間、中国がトップ営業を含め一気に駒を進め、中国勢の落札間違えなしというところで三菱重工-アレバに決まるというめまぐるしさでありました。特に注目しなくてはいけないのは中国勢が破格の金額でオファーをしたにもかかわらず受注できなかったのは日本の震災を見てしまったことが大きかったと思います。つまり、いざ、地震などが起きた際、被害を最小限に食い止めるための安全にいくらかけるか、ということだったと思います。そして、日本の悲惨な結末を見て安全費用に節約はない、ということをトルコ政府が悟ったとしたらどうでしょうか?

日本は成熟国家としてコスト増を招き、輸出競争力を失ってきているとされています。多くの輸出産業は海外にその生産拠点を設けコスト削減に努力しています。一方、今回の原発の受注は日本にしか出来ない技術力と安全性が価格競争以上の価値を生んだわけで日本が付加価値という新たな勝利の方程式を見直す時期に来ていると思います。

ではこの発想を他のアイテムに応用することは可能でしょうか?

私は日本の農産物は実に魅力的なアイテムだと思うのです。

ここ北米では神戸牛といったら多くのアメリカ人、カナダ人でも認知度が高まっています。バンクーバーのちょっとしたレストランのメニューには時としてKobe Beefを使用した料理が目に付きます。価格はローカルのものに比べ比較にならないほど高いのですが、日本の高級牛肉はこちらの牛肉とまったく違う肉と考えても良く、肉=ステーキの固定概念を取り除く必要があるのです。たぶんですが、こちらの人に300グラムの神戸牛のステーキを食べさせてもまた食べたいとは言わないかもしれません。肉のかみ締め感など食感が違うし肉の味そのものが違うと思うのです。ですが、違う料理に使うことでその高級で独特の商品は無限に発展する可能性を秘めています。

米について考えてみましょう。寿司が世界でピザやハンバーガーと並ぶほどポピュラーなものになったのになぜ、米は駄目なのでしょうか? 多分、ほとんどの消費者は米についての理解はないと思います。ジャポニカ米は水を吸い込ませることでより味を引き立たせます。東南アジアや中国の米はそれと違い、基本的にぱさぱさにします。チャーハンにしてもインドカレーのライスにしてもぱさぱさであることがその料理を引き立たせます。ではスペインのパエリアはどうでしょうか? つまり、米の種類が別物なのに別物だと知っている人は割といない、としたらどうでしょうか? 日本はジャポニカ米の販売のチャンスをみすみす逃していたのかもしれません。

日本の米は高いかもしれません。事実カリフォルニア産のジャポニカも他の米に比べはるかに高いですが、品質は違います。私がすし屋を選ぶのはシャリがおいしいところ、というこだわりがあります。そして、そういう店は案外ローカルの人で混んでいたりするのです。

日本の製品が輸出競争力をなくしているとすれば中国や東南アジアで作る商品と直接競合している商品かもしれません。日本はあらゆるものに関して極めて高い品質を提供することが出来るのですが、いかんせん、海外の需要がどういう形で切り開かれるのかわからないところに問題があったと思います。マーケティングの仕方ではずいぶんモノの売れ方は変わった気がします。

トルコで日本勢が原発受注をほぼ受注したことは価格がすべてではないということを非常に明確に提示しました。TPPで農業団体は大きな抵抗を示しています。が、ものの見方を変えるという努力を一度してみたらどうかと思います。
そうすれば世界の地図はずいぶん違ったものに見えてくるかもしれません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年5月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。