雇用は金融政策では改善しない --- 岡本 裕明

アゴラ

欧州中央銀行は政策金利を0.25%下げて史上最低の0.5%としました。事前予想はあったので驚きはしませんが、雇用情勢の悪さを改めて印象付けた形になっています。特に南欧における失業率、特に若年層のそれは国家としての将来を否定する水準といってもおかしくなく、雇用問題は改めて注目せざるをえないのかと思います。


一方のアメリカの4月度雇用統計は予想を上回る16万5000人増で着地。3月分も上方修正され、アメリカの雇用は回復の基調を着実に歩んでいます。同じ金融緩和でもアメリカと欧州での違いがはっきり出ているということは金融緩和が決定的な雇用対策ではないという仮定は立ちそうです。

欧州中央銀行のドラギ総裁は雇用改善のための金融緩和、と述べています。アメリカ、FRBのバーナンキ議長も失業率が6.5%程度まで下がるまでは現在の金融緩和を維持するとしています。つまり、両トップとも雇用改善のために金融緩和が必要である、としています。

金融緩和は確かに資金が緩むという点で緩和しないよりした方がいいのですが、この低金利下では雇用への直接的インパクトは相当低い状態ではないでしょうか? 金利が一定水準にある時に利下げを行う場合の市場へのインパクトは大きいのですが、金利をこれ以上下げられない状態にまで下げ、もはや金融手法という一般経済とはかけ離れたレベルでの操作はテクニカル的すぎて当局の自己満足になりつつあるようにもみえます。

南欧の失業率が改善しない根本的問題は二つ。ひとつはドイツを含む北部ヨーロッパとの格差が明白であること、二つ目に欧州では解雇が厳しくコントロールされているということです。結果として雇用が新陳代謝を生まず、「そのまま成熟し続けること」に最大の問題があります。

たとえばある南欧のレストランを考えてみましょう。サーバーを雇用し、試用期間を過ぎればその人が辞めるといわない限り、その人はずっとそのレストランで働くことになります。それは、雇用主から見ればもっと能力のあるサーバーを雇うことは出来ず、雇用環境をリフレッシュすることもできません。給与もある程度の高止まりを覚悟しなければなりません。一方、サーバーさんはそのレストランで働くことを生きがいとし、更なる成長を求めるならよいのですが、その仕事から得られるであろう1000ユーロか2000ユーロの賃金が欲しく生活の糧のみを理由とするなればこのサーバーさん自身の成長もないし、レストランの成長もないということになります。これは極論ですが、ウィンウィンならぬルーズルーズの関係になる可能性はあるのです。

国家レベルで見れば雇用確保を優先することで若年労働者が仕事からあふれてしまいます。その人たちはわずかの求人チャンスをうまくゲット出来なければ失業したまま無為な時を過ごすか、ドイツや南米に出稼ぎに行くということになってしまい、国家としての労働力という資産活用を放棄しているともいえるのです。

雇用を改善するには金融緩和は確かに助けにはなりますが、この低金利水準になれば効用は少ないと考えた方がよさそうです。アメリカはそれでも雇用改善の可能性ある理由として雇用の新陳代謝、つまり、解雇が比較的簡単に行えること、ブーマーの退職が進み労働参加率が下がってきていることで若年層の雇用が確保されやすいこと、そして、安定した人口増加率、更にはIT産業やシェールガス革命など産業界でそれなりにインパクトある変化が時折起きていることでしょうか?

これはとりもなおさず、金融政策というより国の経済政策であって中央銀行の仕事ではなく、政治家が決めていく内容なのであります。国の活力とは夢と希望であり、それを引き伸ばすことで結果として全体が伸びるということではないかと思います。つまり、被雇用を守ることを主眼におきすぎると本来伸びるべき才能を伸ばせなくなるとも言えなくはありません。

このあたりが欧州と北米で経済拡幅度のスピードの違いとして出てきている可能性はあると思います。
一度専門家も含め、じっくり検証してみたらよろしい気がいたします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2013年5月4日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。
オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。