肝心なのはコンテンツよりソーシャルサービス --- 中村 伊知哉

2013年05月13日 15:02

ソーシャルメディアウィークというイベントで、マルチスクリーンとソーシャルメディアの展望についてニコニコ動画の杉本さんとのトークショーに出演しました。

ぼくのマルチスクリーン仕事というと、デジタルサイネージの普及を促進したりスマートテレビの市場を開発したりしておりまして、いずれも日本型のモデルを作ろうとしています。放送の電波にIPプロトコルを乗せる「IPDC」を使って、大阪のマルチスクリーン型放送研究会が技術やサービスを開発していますが、そんなお仕事です。


さきごろYouTubeがテレビ化しているという記事がありました。元々ソーシャルメディアであったYouTubeがPCからTVへと領域を伸ばして、広告ビジネスに力を入れているわけです。当然ですな。一方、英BBCは、TVのオンエア前にネットに流すという戦略を打ち出してきました。アメリカの戦略に対し、ヨーロッパは公共放送局が身を乗り出します。

NHKは太刀打ちできませんね。日本「放送」協会だから、まずは放送番組を作るってのがあって、それをネットに流す、のがせいぜい。とりあえずのコンテンツをネットやモバイルやソーシャルで展開して、それからTV、なんて芸当は、日本「メディア」協会や日本「デジタル」協会に改名しなければ。

中村さんのマルチスクリーン暮らしは? と聞かれて、はて、気がつきました。マルチスクリーンって言ったって、イメージが共有されていませんよね。

ぼくは基本ノマドで、自宅と、3カ所のオフィスの間をぐるぐるしておりまして、そこにはテレビとPCが置いてある。スクリーンはマルチに存在します。でも使うときは1スクリーンです。移動中はてぶらでかまいません。一方、自分の息子たちは、居間でテレビにネットをつなぎ、そのスクリーンの前でノートPCを開きつつ、スマホもいじり、3スクリーン同時利用。同僚には、PCとタブレットとスマホとガラケーをカバンに持ち歩き、電車の中でもマルチスクリーンってのもいます。

人には人のマルチスクリーン、てことです。

そこで、いろんなデバイスを使ってコンテンツが展開されるビジネスが紹介されました。

家のテレビで見ていたドラマの続きを、電車のスマホで見る。テレビのCMを、街角のデジタルサイネージやオフィスのPCにも届ける。1コンテンツ・マルチスクリーン。この場合のマルチスクリーンは、あちこちにデバイスがあるけど、使うときは1スクリーンのタイプですね。

でもぼくは、別の方向、息子たちがやってる3スクリーン同時利用に可能性を見出します。テレビのコンテンツと、PCの情報と、スマホのソーシャルサービスが渾然となって1ユーザを取り囲む構図。マルチスクリーンに対し、通信・放送のマルチチャンネルで、マルチなコンテンツを届けるサービス。

これまでテレビ局は地デジで番組を届け、ネット企業はブロードバンドでウェブサイトを開き、通信会社はモバイルネットでケータイコンテンツを送ってきたのですが、それじゃダメだということでもあります。一人のユーザを捕まえきれない。マルチなデバイス+チャンネル+コンテンツを、トータルに設計しなければ。

ユーザに頼りすぎなんですよ。

親子丼とギョーザとカルボナーラをコンビニで買ってきて食卓に並べて同時に喰っているぼく。楽しいです。でもそれは、ぼくに「コレが喰いたい」という欲求がハッキリしていて、それを編集する力があり、コンビニがそれを可能にしてくれるから。でもね、ホントはその渾然メニューを、ぼくが同時に喰いたいメニューを、セットでパックにしつらえてハイって定食にしてほしいわけです、食堂には。ぼくが3スクリーンのばらばらなサービスを自分で編集して楽しまなくても、1パッケージで誰かが構成してくれるといいのに、と思うわけです。

それをビジネスとしてどう見るか? という問いもありました。

広告の地合いが少し上向いてきたとはいえ、6兆円市場を奪い合うのは消耗しますよ。課金で成功しているのはニコ動とソーシャルゲームだけですが、広告と課金のポートフォリオを組み立てざるを得ません。日本はガラケーで大きなコンテンツ市場を作ったものの、スマホへの移行で広告市場がガラポンになっているので、再設計ですね。

それより大事になってるのがコマース。ネット小売り40社で合計1兆円、売上に占める比率が5%になったという報道がありました。2007年の日本のネット小売り/小売り全体の売上比は1.5%でしたから、急拡大です。ここをどう広げるか。

それについて、プラットフォームの競争が本質的に行方を左右するのですが、これもさきごろ海外へのテレビ配信サービスに関し、最高裁が原告のテレビ局への勝訴を確定させました。コンテンツの権利が守られたかに見えるものの、それは日本国内でコンテンツのクラウドサービスを行うのは難しいということを明確にしたものでもあります。

とすると、そうしたプラットフォームはGoogleやAppleなど海外のプレイヤーに取られるということでもあり、結局、テレビ局は生殺与奪を海外に握られることになりかねない。勝ったように見えて実は、国ごと負けるのかもしれません。

肝心なのは、コンテンツよりソーシャルサービスだってことでしょう。

マルチスクリーンをソーシャルメディアがどう絡み取って行くか。マルチスクリーンは、ぼく的なノマドだったり、息子的な3スクリーンだったり、同僚的なモバイルだったりしますが、その人たちはみなソーシャルメディアでつながります。

でもそのソーシャルは、twitterだったりmixiだったりFacebookだったりLINEだったり・・。それは毎年変わっているわけで。まだまだ落ち着きません。

人には人のソーシャルメディア、ということです。

そのメディア環境がどう発展するかはユーザの力量に左右されます。

この点、日本のユーザ力は高い。ドワンゴの川上会長が言うには、日本のニートはネットができる程度に豊かで、かつ24時間つながってるヒマ人であって、その人たちのクリエイティビティがやたら高い。その100万人を超えるユーザが日本のネット社会を構築している、と。ですよね。だからこそバルスで世界記録を打ち立てるわけだし、初音ミクも育つわけだし、炎上大国と称されるほどのトラブルも巻き起こすわけです。

では、これからのマルチスクリーン×ソーシャルメディアはどうなりますか? との問い。

わかりません。10年前にはソーシャルメディアなんてなかったわけですからね。だけど、ハッキリしていることは、日本は欧米と違って、若い世代が新分野を作っていくということ。欧米がビジネス主導で新しいサービスや商品が広がるのに対し、日本はティーンズが遊びの中から作り出して行きます。

デバイス?

次のイノベーションは、スクリーンじゃないんじゃないでしょうか。先日、TV60周年をお祝いしていましたが、TVが60年、そしてPCとケータイが20年。その後をスマホやタブレット、そしてデジタルサイネージが襲い、マルチスクリーンと呼ばれるようになったわけですが、そこにまたスマートTVが現れて、一巡しました。この次のイノベーションは別のところから来るのでは。

例えば、ロボットやウェアラブル。ロボットやおもちゃが電波を受けてダンスをするなど、「モノ」が表現して、コンテンツになる。あるいは、服や家電やクルマがネットでつながって交信する。技術的には難しくありません。あるいは、ファブラボ。ハードウェアを自分で作ってしまい、ダウンサイズする。

非言語コミュニケーションになる?

そうですね、人と人のコミュニケーションだけでなく、モノとモノ、マシン・トゥ・マシンになっていきますので、情報そのものが爆発的に増えます。そうしたビッグデータの世界と、いま議論しているマルチスクリーンの世界は、恐らくですが、地続きなのでしょう。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2013年5月13日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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