慰安婦問題と「ト」 --- ヨハネス 山城

アゴラ

若干古いが「トンデモ本」という言葉がある、UFOやら陰謀論やら、「著者のとは違う視点で楽しめる本」というのが定義らしい。これ、慰安婦議論でもある。まぁ、楽しめるかどうかは別として、著者と違う視点でツッコミを入れられる議論は多い。


1.拉致された少女と従軍慰安婦の娼婦を一緒に議論するな。

拉致を相対化したがってる北朝鮮に対する反論やろけど、軸がぶれて「ト(トンデモの略:以下同様)」の臭いがする。

拉致と慰安婦、何が一番違うかと言えば、現在の話か過去の話かということやろ。少なくとも、今現在、現役の従軍慰安婦は、どこにもおらんやろ。検証・謝罪・保証……。

・基本的に過去の問題に対する処理や。拉致は違う。とにかく「今すぐ帰せ」という話や。検証・謝罪・保証てな議論ができる段階まで行ってへん。えらい違いやで。

そこへ、強制性の問題を出したら、拉致被害者は迷惑する。消防車を呼んでくれ、と叫んでいる人の横で、放火か失火か議論を始めるのは、立派な「ト」の世界の住人や。

あることに反論するのに、相対的に小さい理由ばかり挙げていると、本質的な部分が見えなくなる恐れがある。下手すりゃ、それが相手の狙いかも知れん。

2.性奴隷ではなく人身売買や

人身売買ならまぁええわ。というと、「お前の人生1億円で買うたろか」が口癖やった故横山やすし師匠を思い出す。欧米人の定義では、人身売買は奴隷制にはいっているらしい。納得いかん気もするが、奴隷の定義はお任せしておこう。何せ、カレーの本場がインドなら、奴隷の本場はアメリカやからな。

ただし、相手の定義を理解せんまま反論すると、ダイレクトに「ト」や。「これはアヒルだろ」と言われて「いいえ違いますアヒルです」なんてシュールなことを言うていたら、こちらの倫理性やなくて、論理性を疑われる。つまり、「アホ」扱いや。

3.慰安婦は世界中の、軍隊にあった。

世界中というのは、かなりの誇張やろ。最初の投稿に書いたけど、言いたい気持ちはよう分かる。ただ、これは子供の理屈や。「プールにおしっこしたのは僕だけじゃなくてクラス全員です」というやつや(「でも、飛び込み台の上からしたの君だけでしょ」と言われそうな気もするが)。

こういう主張は折に触れてしておくべきやと思うが、非難されて謝罪してる時にこれを始めると、一気に謝罪の説得力がなくなる。言い訳がましゅうて、みっともない。弁明して、かえって相手の心証が悪うなったら、これもひとつの「ト」やろ。

4.補償問題は決着済みである。

直接に補償を求められた状況で、最後の切り札として遠慮がちに出すならともかく、慰安婦と聞くと、反射的にこれを言い出すのは、めちゃくちゃ格好悪い話や。

慰安婦に支払われた軍票が紙切れになった最大の原因は敗戦や。会社更生法の適用で、接待で使っていた風俗店のツケをチャラにした会社の社員が、でかい顔したらアカンがな。その後、その会社が盛り返して羽振りが良くなっても、不義理をした店の前を、肩で風切って歩いていたら、只ではすまんやろ。

特に、売買春を肯定(必要悪視を含む)する立場の人間がこれを言と、これはこれで「ト」の世界に突入や。かの業界の最大の掟は、「やり逃げは許さん」ということやからな。

5.抽象的過ぎる謝罪

「多大の損害と苦痛」とか 「痛切な反省の意」とか言われても、「どのような苦痛にどう責任があるのか」を具体的に言わない限り、謝罪は完成せん。「郵便ポストが赤いのも電信柱が高いのも、みんな私が悪いんですよ」と言われて、喜ぶやつはおらんやろ。

会見で追い詰められて、突然「女性の人権を向上」なんぞと言い出すのも、同じ系統の「ト」やな。「一応、言うだけ言うとけ」が丸見えでは、相手の怒りに油を注ぐがな。

6.従軍慰安婦像への批判

はっきり言うで。あの作品の出来、悪すぎ。「定年を機会にブロンズ像にチャレンジしましたが、うまく出来ませんでした」というレベル。近くに日本大使館があるから、良いようなもんの、別の場所に置いたら不法投棄でパクられかねへん。慰安婦サイドが誰も抗議せんのが不思議なぐらいや。

あれの、最大の問題は、慰安婦の何を表現したいのか全くわからんことや。まさか、仕事中の姿をリアルに再現することはできんやろが、自由を奪われている様子や、女性としての尊厳を踏みにじられていることなんかは、表現する方法がいくらでもあるはずや。ここはアーティストの腕の見せ所でんがな。

それやのに、なんでこれが慰安婦かと言われているようでは、問題に便乗した売名行為とされても仕方ない。立体版の「ト」。こういうのんは、相手にすればするほど、話がデカく、ヤヤコシくなるさかい、スルーするに限る。

こないして「ト」を集めて笑っている分にはええけど、日本人の評判ということを考えれば、結構、深刻な問題やと思う。これからコメントを出す場合、せめて公式の立場のもんは、ここに上げたような、定番商品の「ト」は、避けてもらえんかのう。

ヨハネス 山城
通りがかりのサイエンティスト